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沖縄の家週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション

沖縄の家selection51

祖父の代から住み継いできた約二十五坪の狭小地に、三度目の建て替えで新居を構えることになったAさん一家。
「二項道路」など難条件と法規制をクリアし、南向きの土地のメリットや「天空率」を生かしたプランで居住性の高い住まいを実現ました。

狭小地に建つコの字型の家

狭小地に建つコの字型の家

■住み慣れた場所で三度目の建て替え

 那覇市内の古くからの住宅密集地に建つAさん宅は、昨年十二月に三度目の建て替えを終えたばかり。最初の家は、おじいさまが建てたトタン葺きの家でした。その後、ご両親が建て替えた木造赤瓦葺き二階建てにAさんは結婚後同居して、三世代一つ屋根の下で暮らしていました。しかし建物の老朽化は著しく、今度はAさん夫妻が家づくりに取り組むことになりました。
 おじいさまの代から住み慣れた土地は二十五坪ほどで、幅員二メートル未満の「二項道路」に接し、隣家も近接しています。難条件が重なる建て替え計画に向けて建築士を探していたAさん夫妻は、市役所のロビーで開催していた模型展で、あるプランに目を留めました。「この建築士さんは、わが家をどんなふうに造ってくれるんだろうと興味を持ち、思い切ってコンタクトを取ったんです。その時の対応がとても丁寧で、安心してお任せできると思いました」と話す奥さま。当初は一階にリビング、二階と三階に個室を配した家をイメージしていたそうですが、建築士はその逆の三階にリビングを配したプランを提案。「明るさや風通しなど居住性について考え抜かれており、さすがプロだと思いましたね。リビングは一階にあるものという固定観念が覆りました」と振り返ります。
 ところが建築確認を済ませて工事着工という段階に来て諸事情が重なり、家づくりは保留になってしまいます。

狭小地に建つコの字型の家

玄関ホールの床材は本物の大理石を採用。階段室の大開口部から光が射し込み、開放感を創出します

■コの字プランで開放感を得る

 それから五年が過ぎたころ、Aさん夫妻は建築士に連絡を取り、家づくりを再開しました。プランの現行法適合チェックなどを経て工事はスタート。そして念願の住まいが完成しました。「ほぼ当初通りのプランで建てました。とても生活しやすいですよ」とうれしそうに話すAさん夫妻ですが、築四十年の家を取り壊すときはさすがに寂しかったそう。屋根に載っていた漆喰シーサーは思い出に残しておくことにしました。
 Aさん宅は一階に玄関スペース、二階に寝室や水回り、三階にLDKと和室を配し、東側をコの字に開いた三階建て。コの字の凹部分や階段室、南側に設けた大きな窓などから効率良く光を取り入れつつ視覚的な広がりを確保。ここが住宅密集地であることを忘れそうなほど、開放的な居住空間をつくり出しています。また二階はプライベート、三階はパブリックと、フロアの特性を明確にしたレイアウトにより生活動線は立体的ですが、将来に備えて設置したホームエレベータのおかげで不便さは全く感じないとか。
「小さな家でいつも家族一緒に過ごしていたので、子どもたちはリビングに自然と集まってきます。今後はお客さまをどんどん招いて、楽しい家にしたいですね」と話す奥さま。足かけ七年で造り上げた住まいに、Aさん一家の新しい歴史が刻まれていきます。

狭小地に建つコの字型の家

小さな植栽スペースを設けた玄関ポーチを、ルーバー越しの光が表情豊かに演出。ここが2階3階の凹部分に当たります

狭小地に建つコの字型の家

2階の水回りスペースにも自然光が入ります。浴室にはガラス扉を設置し、効率的な採光と視覚的な広がりを確保

狭小地に建つコの字型の家

計画当初から希望していたホームエレベーターのおかげで快適

狭小地に建つコの字型の家

ダイニングとリビングを合わせても約14畳ですが、開口効果で実際の面積以上の広さを感じます

狭小地に建つコの字型の家

リビングと隣り合わせの和室にも南向きの窓を設置。壁のスリットには照明を埋め込んでいます

狭小地に建つコの字型の家

将来に備えて、子ども室として使っている部屋の間仕切り壁は可動式に

限られたボリュームを最大限に使う

■天空率でデザイン性の高い住まいに ―― 建築士・仲間郁代さん談

 Aさん宅の建て替え計画に当たり敷地調査をしたところ、もともと狭めの二十五坪の敷地は、二項道路セットバックで削られて二十三坪になり、第一種住居専用地域による高さ制限もありました。この厳しい敷地条件をクリアしながら、限られたボリュームの中に要望の二台分の駐車スペースや部屋数をそろえ、プライバシーを守りながらも伸びやかに暮らせる、居住性の高い住まいを目指しました。
 沖縄らしい街並みについては常に考えさせられます。その明確な答えは出ていないのですが、Aさん宅の場合は混とんとした街並みにすっきりと建つ外観にするために、計画当時に規制緩和された天空率を採用。道路斜線に沿って建物の形状を斜めにする必要がなくなり、またコの字型の空地が功を奏して四角形状のシンプルな建物になりました。
 小さいながらも南側と東側が接道する敷地のメリットを生かし、沖縄の古民家の伝統的なレイアウトを意識しました。水回りを北西に、和室は一番座に当たる場所に配置。南側には大きめの窓を設けて、風は南から北へ抜けるようになっています。また高さ制限上、床下や天井裏が全く確保できないため、床や天井はスラブにじか張りにしていますが、屋根からの熱伝導を抑えるために断熱ブロックを置きました。伝統的な家づくりの知恵と断熱性の高い建材を組み合わせ、居住性の高いエコ的な住まいになったと思います。
 住宅におけるエコロジーについては、それぞれに解釈や解決法が分かれるところですが、本質はできるだけ電力を使わずに、光や新鮮な風を取り入れ、自然に頼って暮らすというシンプルなことで、ゾーニングがとても大切だと考えています。
 七年前に考案した計画の実施に当たり、改正後の建築基準法に構造計算が適合しているかどうかのチェックを行いました。その結果、一部の掃き出し窓が腰窓になるなどの変更はありましたが、間取りやデザインなどは当初のままです。
 特に住宅密集地での建て替え工事は、細くて狭い路地に大型重機が入ることもあり、近隣には細心の注意を払って進めますが、施主は良好なお付き合いをされていましたし、隣家の植木鉢に毎日水を与えるなどの現場監督の細やかな配慮もあって、ご近所の方々はとても協力的でした。

狭小地に建つコの字型の家

和室は茶室としても使えるように「にじり口」付きの障子をオリジナル制作

狭小地に建つコの字型の家

コの字の開口部にはコーナーガラスを併用してデザイン性を高めています

狭小地に建つコの字型の家

天空率採用により、四角形状の建物になったAさん宅。3階の和室窓やルーバーが外観のアクセントになっています

仲間郁代さん

仲間郁代さん

■家づくりのヒント

■ラインのない掃き出しで見栄えよく

狭小地に建つコの字型の家

外から見ると突き出た形の掃き出し窓。3階の和室の窓は建物のアクセントになっているため、サッシの太いラインが入っては、内外観の見栄えに大きく影響します。そこで窓の内側にフラットバーと強化ガラスの保護柵を取り付けてラインなしの掃き出しサッシを設置し、デザイン性を高めました。眺めの良い場所の大開口にも応用できます。

■仲間郁代建築設計事務所
『Sweet more Sweet~より甘く~』甘い建築をコンセプトに人の心のよりどころとなる建築を目指し、人の心に寄り添う深層心理や心理的なアプローチの試みも行っている。
http://ikuyo-nakama.jp
家族構成:
夫婦+子ども3人
所 在 地 :
那覇市
設  計:
仲間郁代建築設計事務所
担当者名/仲間郁代・屋良舞乃
敷地面積:
78.93㎡(23.8坪)
建築面積:
55.05㎡(16.6坪)
延床面積:
160.27㎡(48.5坪)
用途地域:
第1種住居専用地域
構  造:
鉄筋コンクリート造3階建て
完成時期:
2009年12月
  • 施 工 業 者
  • ●建築:株式会社比嘉組 担当者/山城真栄
  • ●電気:共立電気株式会社 担当者/小浜守信
  • ●水道:泉水設備株式会社 担当者/新里紀章

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