沖縄の家週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション
9歳、7歳、5歳のお子さまの子育てまっただ中のSさん夫妻は、デザイン性を最優先したマイホームを完成させました。子どもたちが伸びやかに過ごせる広々とした室内空間のアクセントになるのは、こだわりの家具。夜になると、すりガラス越しに明かりが漏れて、行灯(あんどん)のように街並みの一角を優しく彩ります。
家族とつながり、地域に寄り添う家
■デザイン性を最優先した家づくり
夫婦そろって雑貨やインテリアショップ巡りが好きで、結婚当初からマイホームの夢を思い描いていたというSさん夫妻。「以前は主人の実家をリフォームして住んでいました。間仕切りのないワンルームの家で、とても住み居心地が良かったのですが、3人の子どもの成長に伴い手狭になってきたので、家づくりに取り組むことにしました」と奥さまは振り返ります。
購入した土地は、那覇市中心部に程近い生活至便な場所にあるものの、3~4階建てのアパートや住宅に囲まれています。「広さも約50坪と限りがあるので、部屋を細かく仕切らず、子どもたちが活発に動ける広さを確保したいと考えました」とSさんは言います。Sさん夫妻は、「多少暮らしにくくても、デザインにおいて妥協はしない」と家づくりの方向性を明確にし、「生活感が一切表に出ないこと」「コンパクトでも広く感じられる空間」「自宅で料理教室ができるよう、駐車スペースを広く取る」といったことを要望しました。
綿密な打ち合わせを経て建築士から提案されたのは、すりガラスで囲まれたシンプルなつくりの2階建て。ラフプランの段階で「デザイン性を最優先したい」というSさん夫妻共通のこだわりが細部まで貫かれ、イメージ通りの空間が出来上がっていたそうです。
「この家は、ほぼ最初のプラン通りに建てました。グレーと白を基調にしたシンプルな空間のアクセントになるよう、ソファやハンギングチェアといった家具も新居に合わせてセレクトしました」と話します。
店舗や公共施設などに使われる「長尺シート」を、躯体に直貼りした床仕上げ。グレー系の色を選んでキッチン側面のコンクリート打ち放しの質感となじませています。さらに換気扇をキッチンにビルトインし、冷蔵庫を壁面収納に格納。生活感が出がちなキッチン周りをすっきりさせ、インテリアが引き立つシンプルモダンな空間をつくり出しています
黒板塗装を施した階段室の壁面。子どもたちが自由に絵を描いて豊かな感性で空間を彩ります
一目惚れして購入したというハンギングチェアの存在感が、スポットライトによる照明効果もあって一層際立っています
1階の家族みんなのベッドルームは、壁側に本棚や机などを造り付けて多目的に使えるようにしました。掃き出し窓の向こう側は洗濯干し場です
テラス側にフルオープンタイプのサッシを取り付け、LDKとの連続感を創出。テラスの白い壁に映し出される大画面の映像を室内から鑑賞できます
■上下階ともにワンルームにして空間を広く使う
1階はベッドルームと水回りがあるプライベートエリアで、パブリックエリアに当たる2階にはLDKやテラスを配置。居室は上下階ともワンルームのみという、いたってシンプルな空間構成となっています。「1階は子ども室を兼ねているので、寝る前に子どもたちに片付けをさせて1日をリセットします」と奥さま。子どもたちに規則正しい生活習慣をつけさせながら、1つの空間をフレキシブルに使っています。
2階のLDKは、勾配屋根を生かして天井高に高低差を付けた開放的な空間です。扉付きの壁面収納でキッチン周りの生活感をシャットアウト。道路側の開口部は全てすりガラスにしているため、外の明るさによって変化する窓の表情もインテリアの一部になります。
ほかにも、壁に囲まれたテラスは、造り付けのテーブルを食卓にしてアウトドアディナーが楽しめるほか、白い壁を映写スクリーンにして映画鑑賞会を開けるようにしたりと、ここも仲良し家族が一つになれる場所となっています。
子どもたちは、家の中で縄跳びやフラフープをしたり、近所から摘んできた野の花を大人顔負けのセンスで飾ったりして、新居での暮らしを楽しんでいるそうです。Sさん夫妻は「伸び伸びと遊ぶ子どもたちを見ていると、ワンルームの大きな空間にして良かったと思います」と笑顔で話します。内部では常に家族とつながり、すりガラス越しに優しい明かりと気配を放ちながら街並みと緩やかにつながる住まいは、子どもたちの感性をより豊かに育んでいるようです。
造り付け収納で仕切っただけの水回りは、洗面室、トイレ、洗濯室の扉や仕切り壁を省き、広く使えるようにしました
浴槽を省いてコンパクトにまとめた浴室。フレームレスのガラスドアのおかげで視覚的な広がりを生み出しています
地域に対して開放的な都市型住宅を提案
■すりガラスを用いた外観デザインで、プライバシーと街並みへの配慮を両立 ―― 建築士・永山盛孝さん談
土地区画整理事業の区画内にある敷地は、周囲を建物に囲まれている上、唯一開口できそうな道路側は南東斜面から見下ろす形で3階建てのアパートが建っています。計画に当たっては、外の景色を楽しむ暮らしは期待できず、むしろ、どうやって周囲からの視線を遮るかがポイントになりました。
建物の形としては、壁で囲んだいわゆるコートハウス的な造りではなく、周囲環境に影響されにくい生活空間をつくり出し、地域に対して開放的で街づくりにも寄与できる都市型住宅にしたいと考えました。
近い将来、奥さまが料理教室を開く予定があるということで、軽自動車も含め最大5台分の駐車スペースを確保。最も視線の気になる道路に面した側の2階の開口部と1階の壁の一部にすりガラスを用いて、プライバシーと街並みへの配慮を両立した外観デザインを検討しました。その際、すりガラス面の大きさが外観デザインに大きく関わってくるため、2階の開口部側の天井高を190センチ程度とできるだけ低く抑え、奥へ行くに従って高くなる勾配屋根を採用。これにより、建物のプロポーションが整うとともに、この地域に係る地区計画制度の意匠制限もクリアすることができました。
すりガラスで外からの視線を遮りつつ地域と緩やかにつながり、縦滑り出し窓の角度を調整することで南東から吹く涼風を取り込むことができます。また敷地の3方向の建物が日除けになるため、午前中の直射日光をロールスクリーンで遮断すれば日射熱による影響はほとんどありません。
Sさん宅は1階よりも2階が明るく風通しが良いため、居心地の良い2階にリビングの設置を提案。子どもたちが伸びやかに過ごせる広々とした空間を施主が要望していたこともあって、1・2階の居室は大きなワンルームのみですが、将来に備えて、1階は3つの個室が確保できるようにしています。こうしたシンプルな空間構成によって、間仕切りなどに係る内装工事費を抑えることができました。また床材をコンクリートの躯体に直貼りにしたので階高が低くなり、躯体コストの削減にもつながりました。
施主夫妻は「デザイン性重視」という明確なポリシーを持っていたので、意思疎通は大変スムーズでした。また、施工業者も丁寧な仕事で施主の要望に応えてくれたので、設計者として大変ありがたく思います。
洗濯干し場はガラス屋根やアルミ製のルーバーで通風採光。窓を開ければ、隣接したベッドルームはより明るく開放的になります
テラスには片持ち構造のコンクリート打ち放しのテーブルを造り付けています。2階にもトイレ(左手ドア)があるので来客時も便利です
白をベースにしたモダンな佇まいのSさん宅。夜になると、すりガラス越しの明かりで優しい表情を見せます。
外観デザインは、ラフスケッチの段階でさまざまな角度から検討しました
永山盛孝さん
■家づくりのヒント
■扉の開閉時の美観にこだわったキッチン収納
おもてなし料理を得意とする奥さまのこだわりで、2階のLDKの壁一面に設けた収納は、扉の開閉時の美観にも配慮されています。扉を閉めると壁のようなフラットな面になり、フルオープン時には扉は片側にコンパクトに収まります。普段使いの器を含むキッチン道具は引き出しに収めて管理。お母さまから譲り受けたビンテージの器など、形や色のきれいな器は、スポットライトを設置したオープン棚に飾れるようにしています。
- ■一級建築士事務所 団設計工房
- 那覇市久茂地1-8-19
- http://www.dansekkei.jp
- 家族構成:
- 夫婦、子ども3人
- 所 在 地 :
- 那覇市
- 設 計:
- 一級建築士事務所団設計工房
永山盛孝 - 敷地面積:
- 165.30㎡(50.0坪)
- 建築面積:
- 79.05㎡(23.9坪)
- 延床面積:
- 131.02㎡(39.6坪)
- 用途地域:
- 第一種低層住居専用地域
- 構 造:
- 鉄筋コンクリート造
- 完成時期:
- 2012年10月
- 施 工 業 者
- ●建築/(株)太名嘉組(担当・古堅正行)
- ●キッチン/(有)モブ(担当・照屋涼子)