沖縄の家週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション
宜野湾市の高台に建つNさん宅は、海の眺めを存分に楽しむために大きな開口部を設けました。開放感のある暮らしを支えるのは、ぐるっと巡らされた回廊。西日を遮りながら、生活空間に広がりと彩りをもたらす実用性に富んだ空間です。
海の眺めを楽しむ回廊の家
■内と外を結びつける回廊空間
眼下には南北に走る国道五十八号や宜野湾市の街並み、遠くには東シナ海。Nさん宅は、時間帯や天気によって移り変わる景色が満喫できる眺望絶佳な高台にあります。同じ場所に建っていた以前の住まいは、外人住宅を増改築した家でした。室内は広く、快適に暮らしていましたが、老朽化やライフスタイルの変化に伴い二年ほど前に建て替えることになりました。新しい住まいへの希望は、「子どもたちも独立したので夫婦二人でできるだけシンプルな間取りで暮らせること」。設計は、Nさんの弟さんの紹介で巡り会った建築士へ依頼をします。
完成した住まいは、一階を駐車スペース、二階を居住スペースにした二階建てです。コンクリート打ち放しに、アルミのメッシュや特注のレンガブロックを組み入れた外観は、独創的でインパクトがあります。敷地入り口から、ゆるやかに続く花壇に導かれるように二階へ上がると、まず目に入るのが左右に広がる面格子の回廊。この回廊は、住居部分をぐるっと囲み各部屋をつなぐだけでなく、日差しの緩衝帯やサービスバルコニーとしての機能もあります。面格子越しに差し込む日差しが回廊に美しい陰影を生み出して、生活空間に一層の広がり感と彩りをもたらしています。
扉を開けると、広々とした玄関ホール。「靴箱がないほうがスペースを広く使えますから」と大容量のシューズクロークを設けて常にすっきりしています。オリジナルデザインの重厚な両開きの扉を開くと、Nさん宅の主役である二十畳余のリビングダイニングです。テラス側はほとんどが窓スペース。パノラマビューが存分に楽しめるように、ソファは窓に向かって配置されています。さらにトップサイドライトからの採光で、部屋の隅々まで光が行き渡ります。リビングダイニングの右側に、夫婦寝室、水回り、キッチン、納戸。左側には海外に嫁いだ娘さんたちが里帰りしたときのために、ゲストルームを二つ備えています。そしてリビングダイニングの続き間は、縁側付きのゆったりとした和室です。
室内のインテリアは優しい色合いで統一し、その雰囲気を損わないよう家電の類をすべて主寝室に収めています。ガレのランプや手作りの刺しゅうがさりげなく華やかさを添える空間は、洋風ながらもどこかオリエンタルなムードが漂います。
浴室は壁や床を大理石に、窓はガラス張りにして、パノラマビューが楽しめるよう設計。「電気を消して、夜景を見ながらのバスタイムもけっこう気に入っています」と奥さま。さらにNさん宅では、キッチンシステムをコの字に配して小回りをきかせ、屋外排気の掃除システム・セントラルクリーナーをビルドインにするなど住宅機能にもこだわっています。パイプ一本で掃除ができるので、家具やドアを傷めることなく大変便利なのだとか。
夫婦二人のシンプルな暮らしに、一日中見ていても飽きない眺望を取り込んだNさん宅。光や風だけでなく、訪れる人をもおおらかに迎え入れてくれる魅力的な住まいです。
日差しの緩衝帯やサービスバルコニーとしての機能を持つ回廊スペース。アルミのメッシュ越しに差し込む光が美しく空間を彩ります
リビングダイニング。鮮やかな青い海や夕日、美しい夜景など、時間ごとの景色が楽しめます
里帰りする娘さんのために備えたゲストルーム
カウンター式のキッチンで食事を取ることも多いNさん夫妻。片付けも楽でとても便利だそうです
リビングの続き間には広々とした和室
来客用トイレ。特注の華やかな洗面台でおもてなし感をプラス
海の見える敷地環境を生かす
■強烈な西日は回廊で遮断 ―― 建築士・金城義治さん談
Nさん宅は高台に位置し、東側に四メートルの接道が通り、西側は傾斜のかかった敷地環境となっています。晴れの日は視界が百八十度のパノラマ状に開け、南側に那覇港、北側に北谷の美浜地区の街並みと嘉手納方面が一望できる眺望を生かすべく、各々の居室には大きな開口部を設けました。
外観はコンクリート打ち放しのマッシブでシンプルな構造を採用。回廊の外側をスリット状に切り込んで通風採光を施し、開放感と彫りの深い空間をつくりだしました。また、テラスとバルコニーの手すり部分にはアルミのメッシュと特注の焼き物のレンガブロックをはめ込んで、単調になりがちな外観の表情を豊かに演出しています。
配置計画は、奥行きのある敷地や道路からの四メートルのレベル差を生かして雁行(がんこう)状にアプローチを確保して、空間に変化を求めました。一階には駐車場とポンプ室、作業コーナーがあります。二階の居住部分はマッシブな箱状の中にあり、周囲は面格子の回廊によって囲まれています。この回廊は広いテラスとサービスバルコニーの機能を持ち、なおかつ強烈な西日を遮断する外壁のセーフティーネットとしての役目を果たしています。
室内中央には二十五畳のリビングダイニング、東側には縁側付きの八畳の和室を配しました。十二畳余りの台所をコの字に配置した、LDKワンフロアの間取りとなっています。カウンター越しの適度な距離感が心地良く、家族や友達との会話が一層弾みます。また、両サイドにはゲストルームとして八畳の二室、主寝室、浴室、化粧室などがあり、セントラルクリーナーの端末が格納されている納戸があります。大理石張りの広々とした浴室は、床面から天井面までの大きな開口部から海が一望でき、至福のリラクゼーションが満喫できる場となっています。
眺望に優れたNさん宅は、日々の暮らしが楽しめる空間を実現しています。
窓側からリビングダイニングを見る
回廊空間
正面外観(写真提供:金城義治建築設計事務所)
浴室からの景色をご覧あれ!
室内上部にトップサイドライトを設けて採光しています
金城義治さん
- ■金城義治(きんじょうよしはる)
- 1941年生まれ。国士舘大学卒業後、1968〜1983年(株)内井昭蔵建築設計事務所にて、オフィスビル、商業施設、幼稚園、集合住宅、個人住宅等の設計に携わる。1984年金城義治建築設計事務所設立、現在に至る。
所属団体:社団法人日本建築家協会 沖縄支部理事 副支部長 - 周辺環境と敷地のもつ特性や、住み手の日常生活の視点からヒントを見出して設計に反映させています。また、街並みの中で自己主張する建築ではなく、周辺と調和・街並に統一とリズム感を与え、住む人々に開放感と居心地のよさを与える建物を目指しています。姿勢としては、多様な考え方、マテリアルの使い方、工法、架構の工夫を行い、空間の可能性を追求し試作品ごとの差別化を図っています。
- 南城市玉城字奥武275-3 シーサイドビュー205
- (本データは、かふう掲載当時の内容です)
- 家族構成:
- 夫婦
- 所 在 地 :
- 宜野湾市
- 設 計:
- 金城義治建築設計事務所 金城義治・田原正伸
- 敷地面積:
- 671.97(203.27坪)
- 建築面積:
- 205.80(62.25坪)
- 延床面積:
- 366.40(110.83坪)
1階 174.02(53.36坪)
2階 189.99(57.48坪) - 用途地域:
- 第一種中高層地域
- 構 造:
- 鉄筋コンクリート造
- 完成時期:
- 2004年12月
- 施 工 業 者
- ●建築/(株)西高興産 担当 坪倉信行
- ●電気/(有)新屋電気工事 担当 伊波武夫
- ●水道/(株)図南冷熱 担当 上江洲栄伸