沖縄の家週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション
那覇市の古い住宅街に建つCさん宅。一般的には悪条件とされる狭小、変形、段差といった土地の特性を生かして、ご夫妻のイメージに合ったアジアンモダンな雰囲気の新居が完成しました。
変形狭小地に建つ三階建ての家
■断念した土地が新プランで復活
「ここに家を建てるのは不可能だ」。それが土地を見たご主人の最初の感想でした。
奥さまの実家で譲れそうな土地があると聞き、結婚して家づくりの検討を始めたばかりのCさんご夫妻は早速見学へ訪れました。しかしそこで目にしたのは、広さが三十坪に満たない三角形の変形地。しかも三方を道路に囲まれている上、三メートルほどの高低差があるなど、家を建てるのに都合のいい条件はほとんど見当たりませんでした。奥さまの親類がだいぶ前に作成した住宅の設計図が残ってはいたものの、「どうしても新居のイメージがわかなくて」とご主人。結局その土地は一度断念し、マンションのモデルルームや住宅の完成見学会を巡って一から計画を練り直しました。
それから一年近くたったころでしょうか、以前から住宅デザインが気に入っていた建築会社の担当者から連絡をもらった際、ふと「あの人たちならあの土地で、どんなプランを立ててくれるだろう」と思い立ち、試しに相談を持ち掛けてみました。すると出来上がってきたのは、土地の悪条件をまったく感じさせない、目からうろこの納得のプラン。ご夫妻は大喜びし、正式に依頼を決めました。
家の構成を見ると、一階がガレージ、二、三階が住居スペースで、屋上にも上がれるようになっています。間取りは二階にLDKと和室、三階に寝室と子ども室をレイアウト。各フロアは三角形の土地の底辺部分から頂点に向かって開くように設計されています。
現在の外観。道路と敷地に高低差がある場合、右の写真のように道路面に対して擁壁を築造するケースがほとんどですが、Cさん宅では傾斜地をそのまま利用し、1階をビルトインガレージにしました。擁壁工事が不要なため、その分ローコストに仕上がります
屋上。視界を遮るものがなく東、南、西の三方が見渡せます
建築前の敷地の状態。写真手前のポールから奥に見える隣地の擁壁まで、かなりの高低差がある様子がうかがえます
写真提供・株式会社アイムホーム
■内装デザインは現場で決定
お二人が思い描いていた住宅イメージは、バリ島などのリゾート地のような、アジアンモダンなスタイル。外観も室内も色合いを白とブラウンで統一し、間仕切りは極力省いて全体的にシンプルな印象にまとめました。「内装のデザインは工事を進めながら決めていきました。担当の方がその場でイラストを描いていろいろ提案してくれたので、何を選ぶにもイメージしやすかったですね」とご夫妻は振り返ります。
間取りの変更はリビングの先に和室とバルコニーを追加した程度で、ほぼ最初の図面のまま。また限られた空間の中で収納力を確保できるよう、キッチンや玄関、寝室などの壁面にクロゼットを設けたほか、一階ガレージも有効活用しました。「ガレージには車を二台止められるし、奥の倉庫は趣味のサーフボードや冷蔵庫を入れてもまだ余裕があるほど、十分な広さがあるんですよ」とご主人はうれしそうに話します。
念願の新居は昨年八月に完成し、「仕事が休みの日でもどこにも行きたくないくらい、わが家が気に入っています」と話すCさん。あちこち徐々に手を加えながら、今は植栽を増やしたり屋上緑化を計画中です。Cさん宅は小高い丘の頂上付近にあるため屋上からの見晴らしがよく、「昨秋は那覇まつりの花火がよく見えました。今年はここでバーベキューをしたいですね」とのこと。この先どんな家に育つのか、二人の楽しみは尽きません。
ダイニングで夫婦歓談
バスルームは奥さまたっての要望で薄桃色に仕上げました
和室は縁なしの琉球畳を入れてスタイリッシュに。床の間の壁紙と天井は色を変え、空間にアクセントを加えました
キッチンに立つと2階の生活スペースがすべて見渡せます。ダイニングを除いて照明はすべてダウンライトなので圧迫感がなく、すっきり広々とした印象です。家具類は新居のアジアンモダンなイメージに合わせてほとんどすべて新調しました
生活空間を縦方向に展開し、面積以上のゆとりを実現
■現場で部分的に手描きパースを作成し、施主のイメージ決定を補助
担当・三家本真大さん、山内直さん談
Cさん宅のプランニングでは、土地の条件を生かしつつ狭さを感じさせないように設計することがポイントになりました。そのため建ぺい率、容積率とも上限値までフルに使うことを考え、まずは敷地の高低差を利用して一階にビルドインガレージを造り、その上に縦空間を生かしてパブリックスペースとプライベートスペースを重ねました。また各フロアの空間の広さが損なわれないよう細部まで工夫を施し、たとえば床はフローリングなど通常の仕上げにせず、代わりにベニヤを敷き木目調のPタイルを張り付けることで、天井高を保ち階高を抑えることに成功しました。
各室の配置に当たっては、Cさん宅は眺めのよい高台にあるため、敷地の低い南側に向かって視界が開けるよう家全体をレイアウトしました。三方を道路に囲まれた住宅街ですが、内に閉じることなく随所に開口部を設けてあるので、室内は明るく風通し抜群です。プライバシーを守るため通りからの視線の位置を計算して、窓の高さや場所も決めました。
施工中はCさんと綿密に打ち合わせをしながら、現場で手描きのパースを作成しCさんが具体的なイメージをつかめるよう努めました。そうやって施主さんと信頼関係を築いていく中で、たとえばテレビの後ろなど普段よく目にする場所にポイント的にデザイン性のある壁材を使用したり、お二人の好きなバリ島からレリーフを取り寄せて外壁に飾るなど、工夫を重ねました。相手が抱いているイメージ以上の感動を与えることが、プロとしての責務だと考えています。
主寝室。壁面の装飾やシーリングファンライトなど遊び心を加えました
子ども室は可変式に。将来のライフスタイルの変化に対応できるよう中央で区切れる造りになっています
玄関を入って正面にある坪庭は「ウエルカムガーデン」と命名。庭を設けるスペースがなかった分、緑を取り入れる工夫をしました
バリ島から取り寄せた砂岩レリーフは担当者からのプレゼント
三家本真大さん
■家づくりのヒント
■ガレージに大型倉庫を設け住居と土留めに兼用
1階ガレージ奥にある倉庫は建物と同程度の幅があり、ご主人の趣味のサーフィン用具も楽々収納。この倉庫は単なる物入れとしてだけではなく、土留めの役割も果たしています。安全上、かなりの高低差がある隣地との間には土留めを設置しなければなりませんが、倉庫が擁壁代わりになっているためその必要がなく、住居スペースの確保に大きく役立っています。
- ■株式会社アイムホーム
- 〒904-0117 北谷町北前1-2-7 津嘉山ビル101
- http://www.imhome-okinawa.co.jp/
- 家族構成:
- 夫婦
- 所 在 地 :
- 那覇市
- 設 計:
- 株式会社アイムホーム
担当/三家本真大、山内直 - 敷地面積:
- 92.36㎡(27.9坪)
- 建築面積:
- 63.45㎡(19.2坪)
- 延床面積:
- 168.23㎡(50.9坪)
- 用途地域:
- 第1種中高層住居専用地域
- 構 造:
- 壁式鉄筋コンクリート造3階建て
- 建築業者:
- 株式会社アイムホーム