沖縄の家週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション
豊見城市の住宅街に建つHさん宅は、RC造の店舗と木造の住居スペースが重なった混構造住宅です。
スキップフロアを組み込み、リビングを基点に4層の空間が緩やかにつながった、ユニークな造りになっています。
4層がつながる混構造の家
■使用スタイルの違いを混構造で解決
加圧トレーニングジムを営むHさんは、店舗を兼ねた一軒家を建てたいと常々考えていました。結婚後しばらく暮らしていた賃貸アパートでは、10坪程度のスペースをジムに使い、残りの6畳一間で寝食を済ませていました。一人目の子どもが生まれてからは、住居用に2DKの部屋を近くで借りたものの、1日に何度も行き来するたびに手間を感じることがしばしば。それでも熱心に土地を探し続けたかいがあり、2年ほど前にようやく目当ての場所を見つけました。
建築会社との出会いは、ジムに通うお客さまとの会話がきっかけでした。情報を集めるにしたがい、木造に興味がわいてきたことを話していると、「RC造でも木造でも、健康を意識した家づくりで評判の会社がありますよ」と教えてもらったそうです。
打ち合わせが始まってからは、トントン拍子に話が進みました。配置計画としては、南側の前面道路に向けて店舗入口を大きく構え、奥に細長いフラットな敷地形状に合わせて、直方体のボックス状に建物を構成。構造は総木造ではなく、建築士から「1階のトレーニングジムは振動が伝わりにくいようにRC造にして、上階の住居スペースを木造にしてはどうでしょう」と提案を受け、ご夫妻は即座に快諾しました。
土地の購入を決めてから着工まで、わずか9カ月。段取りがスムーズに運んだのは、お2人の意思が明確で、役割分担がはっきりしていた点が大きいでしょう。ご主人はせっせと店舗づくりに励み、住居スペースの間取りやデザインは奥さまが主導で進めました。
外観。前面道路からはシンプルな3階建ての建物に見えます。落ち着いた装いの中にも店舗であることを主張するために、柱だけはやや派手な赤にしました
住居スペースはLDKが一直線につながる開放的な造り。子ども室、リビングからキッチン方向にかけて天井がなだらかに低くなっています。東面のバルコニーは隣地からの視線を意識して板材をルーバー状に取り付けました
■スキップフロアでつながる心地よい空間
Hさん待望の店舗付き新居は、昨年8月に完成しました。当時を振り返ってご主人は「まずはようやくお店がオープンできて、ホッとしたというのが正直な感想です」と話しつつ、「木の香りが漂う家は、やっぱりいいですね」と笑顔をのぞかせます。
店舗脇を抜けて敷地奥に配置された玄関から室内に入り、階段を上がると、木肌のぬくもり豊かな住居スペースが現れます。「リビングを大きく取って、キッチンからフロア全体を見渡せるように」というHさんの要望に合わせて、キッチン、ダイニング、リビングがワンルーム的につながり、さらにリビングの南側には子ども室と主寝室が半階ずつ上下にずれて重なっています。「住宅情報紙で同じように、子ども室とLDKをスキップフロアでつなげた間取りを見て、ぜひわが家でも取り入れたいと思ったんです」と奥さま。スキップフロアになっている分だけリビングはどこよりも天井高があり、東面に開いたバルコニーと合わせてひときわ開放感が感じられます。
キッチンを中心にコンパクトにまとまった水回りの動線も、住み心地を高める大きなポイントです。特にキッチンの北側の、物干し場の横にある家事室は、建築会社のモデルハウスを見た奥さまが気に入ってこしらえたもの。例えば洗濯物をサッと取り込んでおき、あとからゆっくり座って畳めるなど、3人の子育て中のHさんには何かと重宝するスペースになっています。
家の中をぐるりと見回すと、扉や棚をはじめ、掘りごたつ式のテーブルも可動畳も、子ども室に至る階段までも、建具と家具はすべて木製の造り付けです。「住んで1年以上たった今でも、木のほのかな匂いに癒やされます」とご主人。家族と木のぬくもりに包まれた、潤いのある住まいです。
3階子ども室とリビングの間には半階分の段差があることでほどよい距離感が生まれています。リビングの西側の、子ども室から階段を下りてすぐ正面の場所は、パソコンなどを置いた簡単な書斎スペースになっています
リビングから半階下がった場所にある主寝室。法律上はここが建物の2階、リビングが2.5階になります
1階トレーニングジム内。住居のリビングを2.5階にすることで、下にあるトレーニングジムの天井を高くすることができました
右/キッチン奥にある家事室。床を一段高くしたことで、ちょっと腰掛けたり物を置いたり、何かと便利な空間になりました
左/使いやすさを最優先し、シンクもワゴンもオーダーメードでそろえたオリジナルキッチン
混構造・スキップフロアの複雑な構造の中でシンプルな住空間を実現
■細長い家の奥まで光と風を運ぶ開口計画。「FFC建材」で良質な空気環境を創出 ―― 一級建築士・谷信治さん談
Hさん宅が建つ敷地は南北に細長く、南の道路面以外の三方は住宅に囲まれています。こうした敷地条件に加え、Hさんからの要望として、スキップフロアを利用して子ども室からリビング、ダイニング、キッチンへとなだらかにつながる空間構成にすることが求められました。それを踏まえると全体のアウトラインはおのずと現在の形に固まるため、あとは使い勝手に配慮しながら、プランを組み立てていきました。
最も苦心したのは、混構造・スキップフロアという特殊構造ならではの複雑な解析手法です。Hさん宅を断面から見ると、建物前面はRC造の店舗の上に木造2階建てが載った3層構造、その後ろはRC造と木造の2層構造と、一般的な住宅に比べてかなり複雑な造りになっています。そのためスキップ付近は梁(はり)の大きさや耐力壁の量、接合部の必要強度などを綿密に計算して、安全で使いやすい空間を実現しました。
またHさん宅の形状は敷地に沿って細長く、本来なら大きく開きたい南側に子ども室と主寝室が並んでいます。そのためリビングの東面にバルコニーを設けるなど、開口部を四方に効果的に配置して、家の奥まで光と風が行き渡るように工夫しました。LDKの生活動線も、細長いフロアの中を南北にグルグルと巡回できるように組み立てました。現在はワンルームで使っている子ども室も、いつでも3つの個室に仕切れるように設計し、それに合わせてスキップフロアをつなぐ階段を移動・分離できる仕組みになっています。
床材や壁材はすべて、私たち丸親建設で扱っている「FFC建材」を使用しています。建材に含まれる水分に「FFC」と呼ばれる特殊な水を含浸させることで善玉常在菌の働きを活性化させ、カビや病原菌の増殖を抑制。「おいしい空気が吸える家」として、良質で健やかな室内環境を創出します。
住居スペースの玄関は店舗とは完全に分離しつつ、室内から行き来できるようにも造られています
Hさんは子どもが3人。写真左手に等間隔で並んだ掃き出し窓に合わせて、3つの個室に仕切れるようになっています
主寝室には、スキップの階段裏にできたスペースを生かして収納を確保。写真中央の戸の上下に分離している場所が、LDKの床レベルです
主寝室と子ども室は敷地正面に向けてバルコニーを設置。わずかに突き出た庇(ひさし)が日差しの緩衝材として役立っています
谷信治さん
■家づくりのヒント
■RC造と木造の高さを調整し4層のフロアを効率的につなぐ
1階店舗部分の天井高は、リビングの真下に当たるスペースに比べて、主寝室の下は1メートル以上低くなっています。この段差をつけることで、上に載る木造部分のスペースをかさ上げし、建物の高さ制限の規定内で、店舗・主寝室・子ども室という4層構造を実現。リビングを基点に子ども室へも主寝室へもアクセスしやすい、効率的な動線設計にも役立っています。
- ■有限会社丸親建設
- 那覇市小禄1-17-23
- http://www.marushin4848.com/
- 家族構成:
- 夫婦、子ども3人
- 所 在 地 :
- 豊見城市
- 設 計:
- 有限会社丸親建設(担当:谷信治)
- 敷地面積:
- 211.45㎡(約64.07坪)
- 建築面積:
- 104.69㎡(約31.72坪)
- 延床面積:
- 192.33㎡(約58.28坪)
- 用途地域:
- 第一種低層住居専用地域
- 構 造:
- 鉄筋コンクリート造+木造3階建て
- 完成時期:
- 2012年8月
- 施 工 業 者
- ●建築/有限会社丸親建設
- ●水道/有限会社丸親建設
- ●電気/有限会社清和電気