沖縄の家週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション
住宅街の角地に建つ照屋さんの家の中心にあるのは広い庭です。
庭は生活の中心であり、庭を介して街ともつながっています。
庭が中心にある家
■庭と屋根付き駐車場
結婚当初から家づくりを夢見てきた照屋さん夫妻。4年ほど前、土地の譲渡の話があったときは、その夢がかなうかと思えました。ところが、家づくりを依頼した建築士が調べてみると、その土地が埋蔵文化財包蔵地であることが分かりました。そのため発掘調査を終え、建築許可が下りるまで、2年半も待たねばなりませんでした。
照屋さんには「庭と屋根付き駐車場がほしい」、奥さまには「現在の借家も、育った実家も昔ながらの沖縄の瓦屋で、畳のある生活になじんでいる。瓦屋の雰囲気を取り入れてもらえたら」という要望がありましたが、ともにイメージだけで、具体的な形は描けずにいました。建築士は、さまざまな質問と提案を重ねながらイメージの共有に務め、プラン3作目にして、夫婦そろって「これだ」と思えるような形を作り出してくれました。
また、「建築期間中は、資材や設備を選ぶたびに細かく見積もりを出してくれたおかげで、ほぼ予算内に収めることができました。長い期間にわたって、真摯に対応してくれた建築士さんには本当に感謝しています」と照屋さん。
土地は2本の通りに挟まれた角地にあり、やや三角形状の変形敷地になっています。敷地の南東側を走る道路に面して、こだわりの庭を大きく作り、長方形の建物が北西側の道路沿いにセットバックして配置されています。そして北西側の道路が敷地より低いという地形を生かし、敷地を掘り下げて、居住スペースの地階に駐車場を作りました。
広い畳間は家族が食卓を囲む場所であり、一人ひとりが自由に過ごせる場所にもなっています
玄関から室内を見る。奥まで一直線に延びる廊下が部屋と部屋をつなげ、室内と庭を結び付けています
「寝台列車」のような子ども室。ベッドの上にそれぞれ開閉可能な天窓を設置。奥と手前のスペースを仕切って使うことも可能です
キッチンはオーダー品。広間とのつながりを意識して、レンジフードを上部ではなく、コンロの手前に置くタイプを採用
全室とも壁の色は白が基調ですが、浴室のタイルの一部に薄い水色を取り入れて、変化を楽しんでいます
外部でも内部でもないぬれ縁が庭と室内をつなぎ、外の自然を身近に感じさせてくれます。ぬれ縁の下には換気窓があり、地下駐車場に風が抜けるようになっています。庭の一角にはバーベキュー台を設置。友人や親せきが集まって、バーベキューパーティーを楽しむこともあるそうです
■古民家の風情のある家
北西の通りに立つと建物しか見えませんが、駐車場横の階段から玄関に向かうと、正面に芝生の庭が見えてきます。玄関から入ると奥まで廊下が延びていて、その廊下の大開口からぬれ縁へ、さらに庭へと続くスタイルは沖縄の古民家を思わせます。
室内は、対面式キッチンと広間、寝室、子ども室、そして水回りが一列に配されています。コンパクトな家ながら、随所に収納スペースが作られているので、奥さまは大助かりとのこと。
家族団らんの場となる広間は畳間で、広間と廊下の天井には黒塗りのスギ板が貼られ、落ち着いた雰囲気を醸し出しています。そこから庭を見ると、スポットライトを浴びた舞台のように明るく広く感じられ、存在感が増すようです。
子ども室は、3人の机を一部屋に配し、その上部に、それぞれベッドを作りつけるという、まるで「寝台列車」のようなコンパクトな造りになっています。これは奥さまの「勉強はどこでもできる。部屋にこもらせたくないから、子ども部屋は小さくてもかまいません」という要望に応えたものでもありますが、ベッドの上の天窓から星を眺めることもできて、遊び心あふれる、楽しそうな空間に仕上がっています。
「親戚や友人が集まって、よく広間でスポーツ観戦を楽しんでいます。広間から見る満月はとてもきれいですよ」と照屋さん。庭が中心にある家は暮らしにゆとりが生まれ、人と人のつながりを育んでくれるようです。
「倉庫」のような寝室。壁の一部に奥さまの好きな色をアクセントに使っています。右の引き戸を開けると廊下へ。廊下の左手前に押し入れ、反対側には一面クロゼットと、収納がたっぷり作られています
庭が「主」で、住宅が「従」の関係を目指す
■予算内に収めるために個性的な間取りを採用 ―― 建築士・小林志弘さん談
敷地は最大3・5メートルの高低差があり、三角形に近い不整形の敷地に2本の道路が面しています。そのため、敷地周辺からどのようにプライバシーを確保するかに気を付けました。
具体的な要望としては、広い庭と屋根付きの駐車場が欲しいということがありました。そこで設計のコンセプトを「庭の家」とし、庭が「主」で住宅が「従」の関係になるような家づくりを目指しました。また、伝統的な沖縄の住宅の空間構成にならい、縁側(廊下とぬれ縁)で内と外をあいまいに仕切る手法を取りました。縁側は夏の直射日光の室内への侵入を阻止する一方で、南からの自然風を室内に運んでくれます。
予算内に収めるために、個性的な間取りを採用しました。ぬれ縁のある片廊下型の間取りで、フローリング敷きの一般的なLDKではなく、畳広間+台所のワンルームで床座の生活を提案しました。寝台列車のようなコンパクトな子ども室や倉庫のような寝室も、この住宅の特徴です。
台所と広間はワンフロアですが、台所で立ち仕事をしているときに、畳間に座っている子どもたちと顔を合わせて会話ができるように、台所の床を一段低くしました。
家づくりでは、採光も重要なテーマの一つです。照屋さんの家では廊下の掃き出し窓に、カーテンやブラインドではなく、オリジナルの引き戸を設けました。昼は庭から室内に差し込む強い日差しを和らげ、夜は建物の明かりが行灯(あんどん)のようになり、庭を介して街を照らしてくれます。
地下駐車場は湿気がたまりやすいので、上部に換気窓を設け、庭から風が通るようにしました。庭の気配を駐車場に伝え、上下階のつながりを保つ役割も果たしています。
日当たりのよい南東側に庭を配置。「今は芝生を張って広々と使っていますが、子どもが大きくなったら庭のプランも立てたいですね」と照屋さん
高低差のある敷地の低い側に住宅を配置し、地階を駐車場として活用。庇(ひさし)が張り出している部分が玄関ポーチです
掃き出し窓に障子のような引き戸を設置。引き戸を介して、昼は太陽光を柔らかく室内に取り入れ、夜は行灯のように、街をほんのり照らします
家族が集まる広間。交通量の多い道路側の窓はプライバシーへの配慮と西日対策として上方に小さめに配置
小林志弘さん
■家づくりのヒント
■コルクボード壁を家族内掲示板に
台所の壁の一部を一面コルクボードにして、子どもの学校からの連絡事項の紙や写真、カレンダーなどを貼っておく場所を作りました 。一般的にそういうものは、冷蔵庫のドアにクリップで留めたり、貼りつけたりしますが、多くなりすぎて落下したり、風で飛ばされたりすることもあります。ごちゃごちゃにしてもいい場所を、1カ所だけあえて作ることで、その他の場所がきれいになり、部屋をすっき りさせることができます。
- ■プラソ建築設計事務所
- 読谷村字大湾536 島袋アパート1F
- http://plaso.jp
- 家族構成:
- 夫婦、子ども3人
- 所 在 地 :
- 沖縄市
- 設 計:
- プラソ建築設計事務所 小林志弘
- 敷地面積:
- 330.11㎡(99.86坪)
- 建築面積:
- 93.15㎡(28.18坪)
- 延床面積:
- 91.87㎡(27.79坪)
※地階駐車場を除く1階部分の面積 - 用途地域:
- 第一種住居専用地域+近隣商業地域
- 構 造:
- 鉄筋コンクリート造ラーメン構造
- 完成時期:
- 2012年3月
- 施 工 業 者
- ●施工/(株)謝花組
- ●電気/(株)新栄電機
- ●水道/(有)龍設備工業