沖縄の家週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション
夫婦共働きのライフスタイルに合わせて、動線と空間がてきぱき小気味よく組み立てられたIさん宅。
家事効率がよく、親子の会話も自然と弾む、朗らかな住まいです。
緩やかにつながる空間で笑顔と会話を育む家
■ぐるぐる回遊できる家事動線
せめて家にいる間は、子どもたちと関わり合う時間を長く持ちたい。そして家事の負担はできるだけ少なく。
共働きで忙しい日々を送るIさんご夫妻は、そんな要望をかなえるべく、昨年4月に2階建てのマイホームを築きました。敷地はご主人の実家の脇道から畑一つ中に入った、自然豊かな旗竿地。3年ほど前から計画を始め、「沖縄家作人NET」に依頼して6つの設計事務所の案を比較検討した結果、最もイメージに近く「フィーリングが合った」という建築士のプランを選びました。当時は本島を離れ転勤中だったものの、毎週末のように帰省しては打ち合わせを重ね、着工後は実家から工事の様子を眺めて完成を待ちました。
Iさんの要望が実際にどのような形になって表れたのか、そこに建築士のスパイスがどんな具合に利いているのか、キッチンを基点に観察してみると一目瞭然です。
まずは家事動線について。Iさん宅は畑に接する南東を正面にして建ち、キッチンは家の中心から北側に配置されています。南側にあるリビング、ダイニングを横目に体を左へ向けると、まっすぐ延びる廊下を囲んで水回りスペースが並んでいます。突き当たりの洗面室の左手にある扉の外には、庇(ひさし)で覆われた半屋外の物干し場があり、「雨にぬれる心配がないから、天気を気にせず出かけられます。仕事で帰宅が夜遅くなっても安心です」と奥さま。この物干し場には、キッチンのすぐ脇にある勝手口からも出入りでき、つまりは廊下でも勝手口でもどちらを通っても、ぐるぐるとコンパクトに回遊できるようになっています。
スタディスペース側から、ダイニングとリビングを見る。緩やかに仕切られた開放感あふれる空間です。照明には調光機能を付け、シーンや好みに合わせて明るさを自在にコントロールできるようにしています
リビングにいても台所作業の途中でも、いつでも子どもたちの様子がうかがえます。スタディスペースのカウンターとダイニングテーブルの高さをそろえ、それぞれのいすをフレキシブルに使えるように工夫しました
ご主人の実家側から見た外観。両家のプライバシーに配慮しつつ、開放感を損ねず採光通風を図るために、ウッドデッキ回りの外壁をルーバー状にしています
和室。地窓越しにのぞく坪庭は、玄関を開けた正面からも見える場所にあります。写真左側の開口部からウッドデッキに出られます
■家族の気配を感じる空間構成
もう一つの要望だった「子どもたちとの関わり合い」はどうでしょう。こちらは家事動線以上に、幾つかの仕掛けが見られます。
キッチンに立ち、まずは水回りと反対側の右手に目をやると、階段下のデッドスペースをも取り込んだ、スタディスペースが広がっています。北側の壁際と、キッチンの横並びの位置にはそれぞれ造り付けのカウンターが設けられ、階段下には棚が造作されています。勉強や読書をする子どもたちと、台所仕事をしながら会話できるだけではなく、「家での仕事中も子どもたちと触れ合っていられるように」とパソコンを置いて親子共同のスペースにしました。また「どこが誰の場所と決めていないので、子どもたちは話し合ってシェアすることを自然と覚えたようですね」という予期せぬ効果もありました。
キッチン前方にはダイニングとリビングが続き、その右手に客間も兼ねた和室、さらに屋外にはウッドデッキが配置されています。一つ一つの空間は、天井の高低差や壁のレイアウトによって緩やかに仕切られながらも視界はつながり、1階はフロア全体を見渡せるほどの開放感があります。「どこで遊んでいても、気配が伝わってくるので安心です」とIさんは笑顔をのぞかせます。
1階が家族一緒に過ごす生活スペースなら、2階は主寝室と子ども室からなるプライベートスペースです。それでもつながりは保たれており、各部屋の内壁にある小窓を開けると、リビングの吹き抜けを介して、あらご対面。子どもたちが発する元気と活気、そして絶えない笑い声が、吹き抜け壁面の採光窓から舞い込む光と風に乗って、階下のご夫妻のもとへ届きます。家中どこにいても家族の笑顔がつながる、朗らかな毎日です。
右/干し場は庇の付いた半屋外に設置。仕事で帰宅が遅くなっても雨の心配がいりません
左/キッチン右手の戸を開けると、スタディスペースがダイレクトに連結
吹き抜けになったリビングの南東の壁面には、通風採光のためのハイサイドライトが設けられています。壁面には所々にニッチを設けて、子どもたちの成長記録やインテリア雑貨などを展示しています。リビングと和室を合わせて20畳ほどの広さがあります
キッチン回りの動線を軸に、家族と空間のつながりをプランニング
■生活の変化に追随するシンプルな内装デザイン。
居室は仕切らず緩やかに性格づける ―― 一級建築士・安富祖理絵さん談
Iさん宅の設計では共働きというライフスタイルを考慮して、家事負担を減らし、家族の様子にいつでも目が届く空間構成にすることが最優先のテーマでした。キッチンを軸に回遊できる水回り動線にするとともに、1階の生活スペース全体も、そして吹き抜けを通じた上下階の関係も、つながりを意識しながらプランを組み立てました。
建物の配置計画では、採光通風に好都合な南東に開いた敷地条件を生かしつつ、畑一つ挟んでご実家と向き合う位置関係にあることから、お互いのプライバシーにも配慮。畑との境界面にはルーバー状の花ブロックを設置してウッドデッキを覆い、視線を緩やかに制御しました。
居室のレイアウトについては、1階と2階で公私を切り分けるとともに、1階は漫然としたワンルーム空間にならないよう天井高や壁の位置にメリハリをつけ、仕切らず緩やかに性格づけることを目指しました。例えば壁にテレビ台があり吹き抜けで開放感を高めた空間がリビング、天井高をキッチンとそろえ食卓テーブルを置けるスペースを確保した場所がダイニング、造り付けのカウンターに囲まれたところがスタディスペースというように、視覚の変化に伴いそれぞれの場所の役割が無意識に認識できるように計画しました。子どもたちの日頃の振る舞いにも自然と規律が生まれ、しつけ上も、また物が散らかるのを防ぎ家事負担を減らす上でも有効だと考えました。
内装デザインは、Iさんの好みに合わせてオーダーしたチークの無垢(むく)フローリングの色合いに建具もそろえ、全体的に白とブラウンの落ち着いた装いに仕上げました。これからの生活の変化にも追随し、調度品などを置いて自在にコーディネートが楽しめるように、シンプルにまとめることを心がけています。
子どもたちの勉強部屋と夫妻の書斎を兼務したスタディスペース。階段の踏み板と棚板の高さをそろえるなど、細かな納まりにも配慮がうかがえます
吹き抜けになった玄関ホールは、明るく開放的な雰囲気。正面に坪庭を配して潤いを添えました
吹き抜けの壁面に設けられた2階小窓。窓から顔を出して上下階で、あるいは主寝室と子ども室の間で、会話を交わすことができます
2階子ども室は、戸を閉めて2つの個室に仕切れるようになっています
安富祖理絵さん
■家づくりのヒント
■庭感覚で使えるウッドデッキが有意義な触れ合いの時間を育む
1階屋外には、リビングと和室を囲むようにウッドデッキを設置。幅2.6メートルとゆったりとした広さがあり、子どもたちはボール投げをしたり、梁にブランコをつるしたり、庭遊びをする感覚で室内外を自由に行き来しています。庭の面積を最小限に抑えることでメンテナンスの手間を軽減し、伸び伸び遊ぶ子どもたちと長く触れ合える、有意義な生活時間をつくり出しています。
- ■合同会社アン一級建築士事務所
- 浦添市前田4-7-2
- http://anne-archi.jp/
- ■沖縄家作人NET(おきなわやーつくやーネット)
- 同ネットに家づくりを依頼すると、(1 12社の設計事務所に建築プランを頼める (2 見積もり提出後に施工業者を選定できる。完成後の10年保証付き (3 県内銀行との提携により住宅ローン基準金利より1.2%優遇金利の適用が可能、といったメリットがあります
- 那覇市前島2-8-13
- http://www.8298net.jp
- 家族構成:
- 夫婦、子ども2人
- 所 在 地 :
- 八重瀬町
- 設 計:
- 沖縄家作人NET(おきなわやーつくやーネット)
合同会社アン一級建築士事務所 - 敷地面積:
- 459.67㎡(約139.15坪)
- 建築面積:
- 129.36㎡(約39.13坪)
- 延床面積:
- 179.7㎡(約54.36坪)
- 用途地域:
- 無指定
- 構 造:
- 鉄筋コンクリート壁式構造
- 完成時期:
- 2013年4月
- 施 工 業 者
- ●建築/有限会社アトリエ城建
- ●電気/株式会社大幸電設
- ●水道/有限会社丸栄電気水道工業