沖縄の家週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション
築50年を超える旧家を建て替え、母親と一緒に暮らすことにした外間さんご夫妻。
限られた予算内で趣向を凝らし、コンパクトで住み心地のよい平屋の新居を築きました。
快適な動線設計の光あふれる家
■コストパフォーマンスに優れた自由設計の家
外間さんご夫妻は悩んでいました。どんな形の家を建てようかと。L字形、コの字形、はたまた単純に正方形?RC造で平屋にすることだけは決めていました。
敷地は約120坪の広さがある、ほぼ真南に開いた平坦地。もともとご主人の実家があった場所です。目の前を国道が走っていますが、空き地を一つ挟んでいるため騒がしさはみじんも感じません。むしろ東と北を取り巻く畑からの、さわさわと風にそよぐ葉音が耳に響きます。
新居で暮らすのは、外間さんご夫妻と、ご主人の母親の3人です(愛娘は当時おなかの中にもいませんでした)。実家にはしばらく母親が一人で住んでいましたが、築年が古く老朽化が進み、建て替えて一緒に暮らすことにしました。
土地の大きさも形も条件的には申し分ないとはいえ、どこまで広くこだわりを追求した家を建てられるのかは、当然予算あってのこと。依頼した建築会社は、限られた予算内で自由に柔軟に、プランを組み立てられる点に好感をもちました。
建築士に提案してもらった幾つものプランを比較検討した結果、最後に選んだのは、「やっぱりシンプルな形が最もしっくりきたので」と、ほぼ長方形をした現在のスタイルでした。西端の玄関を上がると東に向かって居室が並び、北東の子ども室から主寝室にかけてのスペースだけが、長方形の枠からやや外側に張り出しています。
間取りはお互いのプライバシーに配慮して、主寝室と母親の個室を建物の対角にくるように配置。両室の間にはLDKと子ども室があります。キッチンのすぐ横にある子ども室は「将来個室が必要になったときに囲えばいいだろう」と、現在は間仕切りも何もない、DKと一体化したホールのような空間になっています。そして家の中央にどんと構えたリビングは、隣り合う和室とともに、南の庭に向かって大きく口を開いています。
広々としたシンクで使いやすいキッチン。写真正面の突き当たりには脱衣室とバスルームがあり、右手に行くと洗濯物干し場につながっています
子ども室からLDKを望む。キッチンを基点に水回り、LDK、主寝室、子ども室がグルリとつながり、回遊性のある動線設計で家事もスムーズにこなせます
和室には床の間と仏壇を設置。方位的にも家の南東にあり、昔の民家でいう一番座、二番座に当たります
敷地南側からの外観。リビングの前に広がる芝庭で子どもたちが元気に走り回っている光景が、施主が抱いていたマイホームのイメージでした
■間取りもデザインも使い心地よく
家づくりはとても楽しい作業でした。シンプルモダンな装いの中に、予算と突き合わせつつお二人のこだわりを細部に注入。奥さまは住宅情報紙や雑誌で気に入った物件をこまめにチェックするなど熱心に情報を集め、一カ所ずつ丁寧にデザインを考えていきました。
例えば玄関から室内へ向かう廊下の入り口は、上部がアーチ状にかたどられ、優雅な雰囲気を演出。廊下の両脇には飾り棚と壁面収納を設置して、限られたスペースを有効活用しています。また壁はほとんどが白色の漆喰仕上げですが、模様を半円状の扇形にしたり横引きにしたり、塗りパターンに変化をつけました。
「着工後も常に新しい情報を求めて、いろいろな媒体を調べていたんですよ」とご主人は振り返ります。主寝室の脇にあるウオークインクロゼットに、子ども室からでも出入りできる戸を増設したことも、そんな熱心な勉強のたまものです。もともと建築士の提案で、回遊性のある水回り動線が設計されていましたが、その輪にキッチンから主寝室までの動線が加わり、生活のしやすさが高まりました。
そして特別に思い出深かったのが、建具や家具などの造作はすべて、内装大工として活躍する奥さまの弟が担当してくれたことです。キッチン横のダイニングテーブルや、主寝室の入り口手前にあるカウンターテーブルは、建築士と現場で打ち合わせをしながら、使い勝手を考えてこしらえてくれました。「弟も自由にアイデアを生かせて楽しかったようです。予定外の棚が急にできていたり、逆に、“それは必要ないでしょう”と、私たちの要望が却下されたこともありました」と奥さまは苦笑い。出来上がった家を見ると、床や壁の色合いも、全体的な雰囲気も、建具とよくマッチしていて、使い心地も上々です。「遊びに来てくれた人がみな、“カフェみたいで今風の家だね”と言ってくれるのがうれしいですね」。新築後間もなく、待望の子どもが生まれ、幸せを感じる毎日です。
母親の個室。庭に面した窓から明るい光が差し込みます。当初は現在の玄関の位置にする予定でしたが、西日の影響を考慮して場所を入れ替えました
家の東北端にある主寝室。奥の壁面にも窓を設けて採光通風を促しています
限られた空間内で住み心地を高める回遊性のある水回り動線
■徹底したコスト管理で空間を有効活用。FFCテクノロジーで室内空気を改善 ―― 一級建築士・谷信治さん談
どの住宅でも基本設計では常に、施主の要望をもとにスタイルの異なるプランを数パターン作成し、提案しています。そこで選んでいただいたプランをベースに、施主が実際に望んでいる方向性と設計意図のすり合わせを行い、打ち合わせを繰り返して詳細を詰めていきます。外間さん宅の場合も、L字形や長方形の案を提示した中から現在の形に落着し、微調整していきました。
間取りは外間さんのイメージに沿って居室をレイアウトしていく中で、動きやすくて使いやすい動線設計にも留意。特に水回りはキッチンを基点に回遊性をもたせ、バスルーム、物干し場、洗面室、お手洗いまで左右どちらからでもグルグルと行き来できるように配置しました。今回は徹底したコスト管理も求められました。例えばLDKは当初、リビングの天井を高く上げて開放感を高め、キッチンまで緩やかに傾斜をつける予定でしたが、建物全体のボリュームが膨らみ工費がかさんでしまうため断念。そこで北側のキッチンの天井だけを一段高くしてハイサイドライトを設けることで、家中に光と風が行き渡るように工夫しました。
健康的な空間づくりを目指して建材にも気を配り、フローリングはチークの無垢(むく)材を施工し、仕上げに自然塗料のリボスを塗装しました。塗り壁材は外間さんの好みの色味を求めて、土佐漆喰を使用。一般的な漆喰と比べて、のりを含まないため湿気に強いという特色があります。
また私たち丸親建設では、床・壁・天井のすべての表面材に「FFC」と呼ばれる機能成分を含浸させています。FFCには物質が腐敗・分解するのを抑制し、生育機能を高める作用があるといわれています。この働きにより室内を良質な空気に改善することで、安心で健康的な住空間づくりをサポートしています。
玄関には引き戸を挟んでシューズクロゼットを付設。普段は引き戸を開け放しにして、来客時はすぐにサッと閉められます。右手壁面には造り付けの飾り棚があり、使い勝手を高める工夫があちこちに見受けられます
右/玄関からアーチ状のエントランスをくぐって室内へ。LDKを間に挟んで、東端の主寝室までまっすぐに廊下が延びています
左/脱衣室と洗面室が完全に分かれている点も外間さん宅の特徴です。家族が入浴中でも洗面や手洗いなどを済ませられます
リビングで家族団らん。写真右端に見えるテレビボードや、左端の廊下途中にある机などはすべて、実際の生活をイメージしながら現場で造り付けました
谷 信治さん
■家づくりのヒント
■北側キッチンの天井高に段差をつけ南北の壁面から効果的に採光
家の奥まったスポットや北側など、外の光が届きにくい場所でも効果的に採光できるハイサイドライト。窓を開ければ換気にも役立ちます。外間さん宅では、室内全体に行き渡る明るさを計算して、キッチン上部の壁面に2カ所、南北両面に設置しました。キッチンでは火を常時使うため、熱を帯びて上方に集まった空気を外へ逃がす上でも有効です。
- ■有限会社丸親建設
- 那覇市小禄1-17-23
- http://www.marushin4848.com/
- 家族構成:
- 夫婦、母、娘
- 所 在 地 :
- 糸満市
- 設 計:
- 有限会社丸親建設
- 敷地面積:
- 410.76㎡(約124.25坪)
- 建築面積:
- 142.00㎡(約42.96坪)
- 延床面積:
- 128.08㎡(約38.74坪)
- 用途地域:
- 市街化調整区域
- 構 造:
- 鉄筋コンクリート造
- 完成時期:
- 2012年12月
- 施 工 業 者
- ●建築/有限会社丸親建設
- ●電気/有限会社清和電気
- ●水道/有限会社丸親建設