沖縄の家週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション
高齢のお母さまとの同居に備えたOさん夫妻の家づくりには、位牌継承という条件が伴いましたが、建築士から日常生活に影響のない形で受け継ぐ方法を提案され解決。
リビングやシアタールームなどにもプランを練り、解放感と遊び心あふれる楽しい住まいを完成させました。
室内外一体感の 心地良さ
■同居に備え家づくり
「平屋で天井が高く、明るく風通しの良い家」を希望したOさん夫妻。高齢のお母さまとの同居を機に、二度目の家づくりに取り組むことになりました。
「同居するには以前の家は手狭で、仕事の利便性を考えて、私の実家の近くに新築しようということになりました」と話す奥さま。多くの親類が暮らす地域での家づくりということもあり、土地探しはスムーズに運び、古くからある住宅地内に約四百坪の土地を購入します。
敷地の広さは十分にあるものの、今回の家づくりでは、八十九歳のお母さまとOさん夫妻、それぞれの暮らしを尊重した住まいであることのほかに、奥さまの家系のトートーメー(位牌)を祀るための場所を確保しなければなりませんでした。年間の行事以外にも、先祖の供養や家族の幸せを願い親戚縁者は各々の吉日を選んでウグァン(御願)のために訪れます。この風習をどのような形で受け継ぐかが、プランニングの条件の一つとなりました。
設計の依頼先を決めるに当たりOさん夫妻は、図書館で一年分の住宅情報紙や関連雑誌などに目を通すなどして検討。とある設計事務所に目が留まりました。最初はデザイン性に惹かれたそうですが、実際に事務所を訪ねた際、それ以上に居住性の高いプランが期待できると確信し依頼を決めたと言います。
「私たち自身、住まいのイメージは持っていたのですが、最初に提案されたプランを見て、なるほどこういう方法もあるんだなと感心しました」と、そのプランをOさん夫妻はひと目で気に入ったそうです。
LDKの窓を全開すると、室内外が一体となります
アプローチには緩やかなスロープを付けています
キッチン側からLDKを見る。コーナーにFIX窓を設置し開放感を演出
■リビングと書斎の居心地
完成した住まいは、ゆとりある敷地を生かしたプランにより、緩やかな遮へいと大きな開放性の共存を実現。懸案の位牌は別棟を建てて祀り、日常生活と完全に切り離しました。これで、御願に訪れた人もOさん一家も、気兼ねする必要はありません。
庭を囲むようにL字型に居室が配された母屋。玄関に一番近い位置にお母さまのスペースを確保しました。バリアフリーのトイレや浴室を隣接して設けており、パブリックエリアとなるLDKへの移動にも便利です。
リビングは、まるでプライベートリゾートのようなリラックス感とモダン性を有した空間。光や風が自然に通り抜けていく心地良さや、視線が遮られない自由な感覚に包まれます。天井高三百六十センチの大空間上部に設けたトップライトや庭に向かって大きく開いた窓、その先に延ばしたデッキテラスなど、内と外を連続させたオープンな空間構成に、この空間づくりのポイントが見られます。
「夫婦と母との三人暮らしで母屋への来客はほとんどない上に周りは畑なので、窓を開放して過ごすことが多いですね。夜は虫が入るので、さすがに網戸は閉めますが」とOさん。
奥に配した寝室や洗面室などの夫妻のプライベートエリアは、リビングとは対照的におこもり感のある空間に仕上げられています。中でも、Oさんの絶対条件だった書斎兼シアタールームは、ほかの部屋より六十センチほど低くずらしており、こだわり通した立体的な空間構成が独立性を高めています。
位牌継承や同居の在り方をベストな形にまとめ、家族のライフスタイルが反映されたOさん宅は充実感に満ちています。
書斎兼シアタールーム。蔵書やオーディオ機器はすべて造り付け棚に収納
離れの仏間。裏座にはキッチン、トイレ、倉庫があります
離れと母屋の位置関係や彫りの深い建物形状が見て取れるOさん宅模型
モノトーンでモダンにまとめた洗面室。収納も充実しています
バスルーム。窓の外に見えるのは坪庭の緑です
敷地全体を活用する
■室内と外部の連続性に配慮 ―― 担当者・中園光浩さん談
Oさん宅のプランニングでは、約四百坪のいびつな型状の敷地の中に要望された間取りを収め、なおかつ空いた空間を有効利用できるような配置計画を心掛けました。まず、位牌を祀る建物は母屋と離して建て、母屋は親子世帯のプライベートエリアと、LDKのパブリックエリアをはっきり分け、各居室をL字型に配置。南側に立脚した開放的なプランです。また、建物の後方に当たる西側には、家事室からの動線とつなぐ形でサービスヤードを、Oさん夫妻のプライベートエリア側には坪庭を置くなど、室内と外部との連続性にも配慮しています。
「明るく風通しの良い家であること」が前提でしたので、LDKの両側には大開口を提案しました。基本的に壁式構造の建物ですが、部分的に梁を入れて構造の強度を高め、南側の庭に面した部分は、梁と梁のスパンを十メートル近くまで広げ大開口を実現。庇は二メートルと深く、ウッドデッキと並行して渡しているので、雨の吹き込みや入り日はほとんどないと思われます。
デザインのポイントは、駐車場と母屋天井のボリュームの対比や、深い庇が形作る彫りの深さです。内部については、造り付け家具などの素材を統一。設計段階や工事中に話し合いを持ち、のちのちの装飾や利便性を考えてコンクリートの壁にピクチャーレールやパネルを取り付けました。
書斎兼シアタールームは、半階下げているので防水を施し床下換気口を設けて強制換気を行えるようにしました。施主自身、オーディオや電気設備などの専門知識が豊富で、そのこだわりを重んじ施主主体で進めていきました。奥さまのこだわりはキッチン、収納、家事室など。それぞれはっきりした役割分担があったので、スムーズに打ち合わせを進めさせていただきました。
キッチン、ダイニング、リビングを一直線に配置。家事室や食品庫もキッチンに隣接しています
南側の庭から見た母屋と離れ
LDK側のもう一つの庭はタイル敷き。植栽帯は坪庭へと続きます
夜のOさん宅外観正面(アトリエ門口提供)
■家づくりのヒント
■トップライト風の光で夜を演出
直射日光を浴びないように人が停滞する位置を避け、開口部近く8カ所に設けられたトップライト。日中は電灯をともさずとも十分な明るさを室内に届け、空間を表情豊かに演出してくれます。Oさん宅では、そのトップライトを利用して、天井パネルの裏側に蛍光灯を設置し、光源を見せずに反射光で室内を明るくします。夜も昼間と同様のトップライト風の柔らかい光を生み出す隠れた照明テクニックです。
- ■(有)アトリエ門口
- うるま市字江洲598-17
- http://www.kadoguchi.net
- 家族構成:
- 夫婦、母
- 所 在 地 :
- うるま市
- 設 計:
- (有)アトリエ門口 知念・中園
- 敷地面積:
- 1342.04㎡(405.96坪)
- 建築面積:
- 294.99㎡(89.23坪)
- 延床面積:
- 233.22㎡(70.54坪)
- 用途地域:
- 未指定
- 構 造:
- RC壁式構造平屋建て
- 完成時期:
- 2008年9月
- 施 工 業 者
- ●建築/有限会社仲真組
- ●電気/合資会社中江電気
- ●水道/有限会社山商
- ●キッチン/有限会社MOV