沖縄の家週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション
斜めにせり出したリビングの窓が印象的なKさん宅。
半階ずつずらした3つの空間をつくり、家族団らんのスペースを中2階に設けました。
スキップフロアで家族団らん
■中2階のある家
家の中央を天井まで貫く吹き抜けに沿うように、床レベルの異なるフロアが3つ。駐車場と玄関の間にある階段も含めれば、4層構造とみなすこともできます。でも、外から見ると、隣にある2階建てのご主人の実家と背の高さは同じ。どちらも2階建ての住宅です。
興味深いこのからくりの仕掛けは、家族が集うリビングとキッチンのスペースを、1階と2階の間の中2階、つまりスキップフロアに設けているから。43坪強と決して広いとはいえない土地に、ご夫婦と育ち盛りの子どもが3人、それぞれの居場所を確保しつつ伸び伸びと暮らせる家を建てるには、「1階をピロティにして、生活スペースを2、3階にもってくるしかないだろう」とご主人は当初考えていました。しかし要望通りの間取りでは予算が足りず、建築士から「スキップフロアを採用してはどうか」との提案を受け、Kさんは納得。程なく現在のカタチにまとまりました。
新居が完成したのは6年前。土地と資金にめどがつき、完成見学会を回っているときに出会ったのが、今回依頼した建築士でした。「僕らの現実的な注文と、プロならではの感性、芸術性がぶつかるのではないかとの懸念もありましたが、抱えていた疑問や要望をすべてカバーしつつ、スキップフロアにするなど独創的な案に仕上げてくれました」とご主人。考えてもいなかった建物の形状に、「図面を見るたびに、実際にどんな家が出来上がるのかワクワクしていました」と振り返ります。
ご主人が「お気に入りの場所」と話す2階踊り場から、吹き抜け越しにスキップフロアと1階を見下ろす。斜め方向に視線が流れるのは、スキップフロアをもつ家ならではの特色です
リビングでくつろぐKさんご夫妻。窓の外には背の低い壁を設けて通りからの目線を防ぎ、坪庭を設置。窓の中央だけは換気のため開閉できます
■窓ガラスを斜めに
出来上がったKさん宅の間取りを見てみると、まず1階がご夫婦のフロアで、玄関を上がって左手に主寝室、右手に「作業場」と称する流し台があります。ここはご主人が趣味で釣ってきた魚をさばいたりできるほか、勝手口からも出入りでき、床が土間コンクリートになっているので、子どもたちが泥んこになって帰ってきても、汚れを家の中に持ち込まずその場で落とすことができます。
そして家の中央の吹き抜けを囲むように、スキップフロアと子ども室のある2階が、らせん状に配置されています。それぞれのフロアは独立性を保ちつつ、空間が緩やかにつながっているので、どこにいても家族の気配が感じられます。
リビングとキッチンのあるスキップフロアは、全面ガラス張りの明るく開放的な空間です。窓が斜めにせり出しているのは、「建築士さんが手がけた他の物件で使われているのを見て、ぜひわが家にも導入したいと、急きょお願いしました」というKさんこだわりのデザイン。外観上の一つの特徴にもなっています。
実際に住み始めてみると、予想しなかったいろいろな発見がありました。例えば「リビングを明るく照らしていた朝日が、夕方になるとその反対から差し込んできます。夏と冬では日の当たる角度も変わり、1日を通して、年間を通して、天気や季節の移ろいが楽しめます」とのこと。6年たっても尽きることのない、そんなワクワクする感覚は、これからもずっと続いていくことでしょう。
家の中も外も壁はコンクリート打ち放しに。斜めにせり出した窓が個性的な表情をつくり出しています
1階流し台は第2のキッチン。現在は土間部分に、ご主人の趣味と予備食料の保管用に冷凍庫を置いています。写真左手に見える扉はお手洗いです
キッチンは対面式で、奥さまご所望のオレンジ色に。コンクリートの壁面とは対照的な鮮やかな色合いが、明るい雰囲気を演出します
玄関からの室内の眺め。床は白を基調にしたタイル張りにして、フローリング仕上げの2、3階とは趣を変えてあります
2階子ども室は男女別に2つのスペースに分け、女の子用の部屋は2人の娘さんの成長に合わせて中央で仕切れるようになっています
変化に富んだ空間を吹き抜けと中庭でつなぎ、居心地を高める
■現在と将来の生活スタイルを見据えた、効率的な間取りを実現 ――
一級建築士・仲宗根将信さん談
中2階のスキップフロアをリビングにする今回のプランは、Kさんの生活スタイルを考慮したものです。ご主人は勤務時間の不規則な仕事をしているため、日中でも静かに休めるように主寝室と子ども室を上下階に分けて、その中間に家族が集うリビングを配置しました。
リビングは南東の前面道路に向かって大きく窓を取り、家の中央を吹き抜けにして、呼び込んだ光と風が各フロアへ行き渡るように計画しました。リビングの窓は上部が外側へ傾いている分、通常の垂直の窓に比べて視覚的な動きが生まれ、室内がより広く感じられます。
家の奥には吹き抜けに沿って中庭を設けました。中庭を囲む3方向には1、2階それぞれに開口部をつくって、効率的な風の流れを創出。光が届きにくい奥まったスペースの明るさも確保しています。またこの中庭は「専用テラスがほしい」というご主人の要望に応え、1階主寝室から出入りできるようなっています。主寝室と一体的に使えるので、6畳という部屋の狭さを緩和する役割も果たしています。
子どもたちが巣立った後、老後まで住み続けることを考えて、将来は1階だけで暮らせるように設計してあります。もともと流し台とお手洗いが備わっているので、簡単に整備することができます。
家づくりは、私たち建築士と施主さんが一緒になって築き上げていくものです。Kさんとはお互いに歩み寄って密に意見を交換し合いながら、いい家づくりができたのではないかと思っています。
中庭の奥には開閉自在のアルミルーバーを設置。閉じた状態でも羽の角度を調整することで、風通しをコントロールできます
1階中庭側から玄関方向の眺め。中庭を挟んで反対側のガラス戸が主寝室です
見る方向によってさまざまな眺めを楽しめるのがKさん宅の特色。2階廊下に立つと、斜め下のリビングだけではなく斜め上にも視線が誘導されます。空だけが窓に切り取られ、開放感がより一層高まります
主寝室。開放的な造りの居室が多い中にあって、ご夫妻の部屋だけは静かで落ち着きのあるたたずまいです
仲宗根将信さん
■家づくりのヒント
■各フロアを半階ずつずらし視界と空間の変化を楽しむ
スキップフロアとは、平面的に廊下で空間をつなぐのではなく、半階ずつずらしながら、縦に短く階段で空間を結ぶ手法です。限られた床面積の中で、効率的に空間に広がりを持たせることができます。また視線が上方や下方斜めに抜けるなど、変化に富んだ視界が楽しめます。
- ■三愛企画設計
- 沖縄市照屋1-23-9
- 家族構成:
- 夫婦、子ども3人
- 所 在 地 :
- 北谷町
- 設 計:
- 三愛企画設計(担当:仲宗根将信・大城勉)
- 敷地面積:
- 143.975㎡(約43.55坪)
- 建築面積:
- 85.679㎡(約25.92坪)
- 延床面積:
- 175.188㎡(約52.99坪)
- 構 造:
- 鉄筋コンクリート造2階建て
- 完成時期:
- 2007年4月