沖縄の家週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション
実家の建て替えを機に二世帯住宅を建てた玉那覇さん。
高台にある南向きの敷地条件を生かしたL型の配置計画で、親子両世帯それぞれに庭を確保。
特有の設計で両世帯に「近からず、遠からず」の距離感をつくり出しています。
南に二つの庭を持つ L型2世帯住宅
■南に二つの庭を持つ L型2世帯住宅
高台の静かな住宅地に建つ、玉那覇さん家族とご両親の二世帯住宅。以前は近くのアパートに住んでいましたが、築三十五年になる実家の建て替え話が持ち上がり、「この際だから二世帯住宅を建てよう」と家づくりを決意。建築士でもある玉那覇さんは、忙しい合間をぬって自宅の設計に取り組みました。
敷地は南北に細長い形状で高台に位置しており、見晴らしは抜群です。玉那覇さんはこの敷地条件を生かし、高さの異なる二つの建物をL型に配置することにより両世帯それぞれに南向きの庭を確保しました。南側には平屋の親世帯、北側には三階建ての子世帯を置き、その一階を共用の駐車場、二・三階を居住スペースとしました。
「両親は、南側に庭を希望したので、もともとあった庭の一部を残すことにしました。子世帯用には、平屋の屋根に緑化ブロックやデッキを敷き、屋上庭園を造りました。それにより親世帯では断熱効果が得られ、子世帯も南から吹く心地良い風や眺望を享受することができます」
大勢の来客に備えた駐車スペースに加えて、親子世帯の間に設けたデッキスペースで「近からず、遠からず」の適度な距離感をつくり出し、気兼ねなく暮らせる住まいを完成させました。
コンクリート打ち放しのシャープな外観に映えるシンボルツリーのヤシの木。共用のアプローチを奥に進むと親世帯です。室内はバリアフリー仕様、壁には珪藻土を使っています。LDKを中心に和室、寝室があり、トップライトなどで効果的な採光を図っています。リビングの隣には大きなデッキスペース、その上部にFRP格子パネルを設置。光や風を取り込みながら、上階の子世帯に気配を伝えます。
「二世帯住宅の場合、お互いの目線は一番気になると思うんです。この部材を使うことで、程よいつながりが実現できたと思います」と玉那覇さん。
一方の子世帯は、屋上庭園に面した吹き抜けの開放的なLDK、その上部には造り付けの勉強机を並べたプレイルームがあります。「吹き抜けを介して子どもたちの様子が分かるので安心です。個室は最小限にして、パブリックエリアに家族が自然と集まるような空間構成にしました」。そのほか、二階には書斎、三階には子ども室や主寝室などがあります。子世帯の内部仕上げはコンクリート打ち放し。建具の色合いや金具などのディティールにこだわり、無機質になりがちなコンクリート打ち放しの空間を温かみのある空間へと変えています。そして、奥さまが唯一こだわったのはキッチン。「収納力や使い勝手も申し分ありません」と満足そうに話します。
お互いの時間に配慮し、相手を見守る間合いが随所に感じられる玉那覇さん宅。「人が集まりやすい空間をつくるのが好きですね。人が集えば元気が出てきますから」と語る玉那覇さんの思惑どおり、兄弟は家族連れで頻繁に訪れ、来客も多いのだとか。南に広がる庭から、子どもたちの元気な声が今にも聞こえてくるようです。
子世帯の南面は大きく開口。屋上庭園とひと続きになり開放的
2階子世帯LDK。上部にはプレイルームがあります
2階子世帯廊下からリビングを見る
子世帯ダイニングスペースには、ファミリーレストランのようなL型のベンチを配置。座面部分が「ドッコ式」となっており、座面を取り外せば利用頻度の低い物を収納できます
3階プレイルームは吹き抜けと一体空間。真下にLDKがあります。個室は必要最小限の広さにして、パブリックスペースに家族が集まるよう配慮
親世帯LDKとウッドデッキのつながりを見る
親世帯リビング隣に配した和室。既存の庭を望む穏やかな空間です
2世帯間の断面計画を工夫
■敷地条件を生かした建物配置 ―― 建築士 玉那覇昇一さん談
従来の積層型、いわゆる階で親世帯と子世帯を分ける二世帯住宅では、下の階は庭を持つことができるのに対し、上の階は戸建て住宅にもかかわらず庭が持てないケースがほとんどです。この二世帯住宅は、南に向かって二つの建物をL型に配置し、断面計画を工夫することで両世帯それぞれの南側に庭を確保。両世帯の主要な居室も南向きとなっており、心地良い光や風を取り込むのに加えて、二つの建物を適度に離した隙間からも通風・採光を実現。良好な住空間をつくることができました。さらに、親世帯の屋根には、屋上緑化を施しウッドデッキを設置しました。この屋上庭園は、南側に大きく開口した子世帯のリビングと一体となって視覚的な広がりをもたらすとともに、大勢の来客の際にも対応できる多目的空間となります。
両親が要望した太陽光発電システムの導入や雨水利用の設備は親世帯の電気供給や散水栓につなげています。子世帯の吹き抜けに突き出ている片持ちスラブは、空間をより広く見せるよう構造に配慮して設計しました。
親世帯玄関ホールに設けられたトップライト。暗くなりがちな部分を明るく演出しています
前面道路から見た玉那覇さん宅
親世帯デッキスペース。上部にはFRP格子パネルを設置。この空間を介して両世帯がつながります
子世帯キッチンからLDKや庭を見る
玉那覇さん宅断面図。側面から見るとL字型で構成された2世帯住宅の造りが分かります 提供・一級建築士事務所 斎
玉那覇昇一さん
■家づくりのヒント
■コンクリートでできたキッチン
コンクリート打ち放しで仕上げた子世帯に合うキッチンのスタイルを考えた結果、「コンクリート打ち放しキッチン」を造りました。
まず、キッチンのベースとなる部分は、壁や床などと一緒にコンクリートを流し込んで造ります。天板部分には吸水防止剤を塗り、水分が浸み込まないように処理を施しました。デザインをシンプルにするため、レンジフードを下引きタイプにして、その吸込口をキッチンの天板部分に設けています。このため、奥行き寸法1mのキッチンは普通のものより大きくなりますが、その奥行きを生かしてリビング側には、お酒やグラスなどの収納スペースを確保しています。
- ■一級建築士事務所 斎(さい) 玉那覇昇一
- 1972年南風原町生まれ、1994年明治大学理工学部建築学科卒業後、(株)大城組建築部、(株)エー・アール・ジー設計部勤務を経て、2007年「一級建築士事務所 斎」設立。事務所名である「斎」とは、家や建物という意味があり、住宅をはじめとする建物を創っていくという意思を漢字一文字で表現しました。また、書斎の「斎」という文字をアトリエと置き換え、その意味も含め「斎」と名付けました。
- http://www.atelier-sai.net/
- 家族構成:
- 親世帯/夫婦 子世帯/夫婦、子供3人
- 所 在 地 :
- 南風原町
- 設 計:
- 一級建築士事務所 斎(さい)
- 敷地面積:
- 333.98㎡(101坪)
- 建築面積:
- 179.48㎡(54.2坪)
- 延床面積:
- 301.89㎡(91.3坪)
- 用途地域:
- 第1種中高層住居専用地域
- 構 造:
- 鉄筋コンクリート造3階建て
- 完成時期:
- 2008年1月
- 施 工 業 者
- ●建築/(株)大城組
- ●電気/(有)新屋電気工事
- ●水道/(有)ライフ工業
- ●キッチン/(有)モブ