こだわりのガレージで趣味を満喫

■コンセプトはシック&インパクト

　十代のころから家を建てる夢を持ち続けていたという伊良波さん。四年前、住んでいたアパートの立ち退き話が引き金となり、三十代にして夢を実現させました。
「新たにアパートを借りるより、家を建てるほうを選びました。コンセプトはシック＆インパクト。妥協は絶対にしたくなかった。オートバイが好きなので、特にガレージにはこだわりました」
　眺めの良い高台の土地を親から譲り受け、建築士を決めるに当たっては数多くのオープンハウスを見学して、複数の建築士の作品を検討しました。そして、その力量に全幅の信頼を寄せて実兄への依頼を決めたそうです。
　最初の打ち合わせで、伊良波さんが真っ先に相談したのは家の形でした。
「漠然としたイメージで、紙面に家の形を○・□・△、あるいはH・J・コの字型などで描いて見せたらあきれ返っていました」と苦笑い。眺望や風の向きを考慮した結果、コの字型の造りを選択。RC造二階建ての階層を公私に分け、一階にガレージとリビング、キッチン、和室などを、二階には寝室や子ども室、水回りなどを配しました。
「とにかくスタイリッシュな家にしたかった。一階は細部にこだわってシックに、娘二人の部屋もある二階は優しい色合いでナチュラルにまとめました」

アプローチから建物を見る

床上18㎝の位置にコンクリートを張り出して造った浮遊感のあるキッチン。映り込む材質のステンレスで覆って、より軽やかなイメージに

■ガレージ・池・浮遊型キッチンをコの字に集約

　アプローチから伊良波さんの家を見ると、開口が抑えられ閉じた印象がありますが、室内に入ってみると眺望の開けた南東側に大きな開口があり、開放的な造り。コの字に囲まれた部分にはウッドデッキを敷き詰めた雨端の空間と、金魚の泳ぐ水深の浅い池があります。コの字型のうち、L字型に繋がった二辺部分に生活空間が置かれ、残り一辺がガレージです。
「ガレージだけは作業場のイメージでコンクリート打ち放しにしたのですが、音が反響するのは問題。建築士に相談したら、吸音効果のあるグラスウールを天井に張るようにと勧めてくれました。オートバイ台などの設備はすべてイタリア製です。ガラスは紫外線・赤外線遮へい性能のあるフィルムを使っています」。池に面して設けた開口はガラス張りなので、趣味に興じながらも家族の気配が感じ取れます。
「雑誌などで見ても、キッチンはどれも似たり寄ったり。インパクトのあるものにしたかった」と伊良波さん。建築士とあれこれ模索した結果、思い付いたのは宙に浮いたキッチン。コンクリートスラブを延ばしてステンレスで覆う形を造り出しました。その下にＬＥＤを仕込んでさらにおしゃれに浮遊感を演出。
「建材などを厳選し、家具にもこだわり、食器類も家のスタイルに合わせてすべて買い替えました。嫁さんはそれが楽しかったみたいですね。今後の目標はこの家の維持管理です。新築の状態を保ちたくて暇があればどこかを磨いています」と手入れに余念がない伊良波さん。マイホームの実現で自宅に帰る楽しみが増したそうです。

レージの壁はコンクリート打ち放し、室内は土間敷きで作業場風に。写真にはありませんが、手前に2畳ほどのフローリング敷きのスペースを設けています

庭で伸び伸びと遊ぶ子どもたち。池の水は屋根から雨水を引いています

和室。つり戸棚の表装は和紙を使用。居室の壁はすべて漆喰仕上げです

ダイニングの背面は吹き抜けの階段でトップライトを設置。上からの光が突き当たりの壁に映り込んでいます

大開口で室内とデッキをひとつながりに。眺めの良さを生かした、明るく開放的なLDKです

ガレージと生活空間につながりを持たせる

■宙に浮いたキッチンで空間に広がりを ―― 建築士・伊良波朝義さん談

　アパートの立ち退きを機に、親の所有する土地に親兄弟の四世帯で同時期に家を造ることになり、すべての設計を私が担当しました。そのため互いのプライバシーを尊重して、それぞれ家の向きや窓の配置などを決めることができました。例えばこの家の場合、二階の浴室の窓は向かいの家から見えない場所に置かれています。またガレージの外側の壁は隣家と向かい合った場所にあるので、窓は最小限に抑えました。
　施主が一番にこだわったのがガレージという家づくりにおいて、そのガレージと生活空間をどうつなぐかが課題でした。そこでＬ字型の母屋とガレージをつないで、全体としてはコの字型を描くようにしました。ガレージにこもることが多いと思いますが、常に家族がお互いを気に掛けていられるような造りになったと思います。またガレージ部分はすべて土間にして広く使いたいとの要望がありましたが、二畳ほどをフローリングにして生活空間と連続性を持たせました。
　実はコの字型といっても、ガレージ側は対面する側より短くしてあります。沖縄はほぼ南東から風が吹きます。両側を同じ長さにすると、ガレージの壁が風の通りを遮ってしまいます。南東側の大開口から引き込んだ風を、キッチン側の勝手口や吹き抜けの階段から逃がすことで室内に熱がこもるのを防いでいます。
　施主のもう一つのこだわりは、インパクトのあるキッチンでした。生活空間であるＬ字型の要の部分にキッチンをどんと据えるのではなく、空間に溶け込むよう軽やかに浮かせることを提案しました。さらに映りこむ材質のステンレスを使うことで存在感を消しています。

右/階段横の廊下を広げてホビールームに。階段上部のトップライトからの光で明るく開放的に
左/洗面室と物干し場。物干し場は吹き抜けでトップライトから光を取り入れています

子ども室。将来は仕切ることも

主寝室。ピクチャーウインドーで眺めの良さを生かしています

伊良波朝義さん

■家づくりのヒント

■ヒヌカン（火の神）供えるシンプルな場所を

キッチンにヒヌカンを祀（まつ）りたいという施主のために、シンプルかつスマートな供え場所を造ることにこだわりました。レンジの横に置かれているのをよく見掛けますが、できれば台所の前面に置きたい。対面式キッチンの場合は特に難しいのですが、この家の場合は御影石の板を渡して供え場所を確保し、あまり目に付かないように工夫をしました。

■（有）義空間設計工房 一級建築士事務所 代表取締役 伊良波朝義

那覇市字真地169番地1 098-888-5303

http://www.gikuukan.com/