沖縄の家週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション
築四十年以上の実家を建て替え、二階建ての二世帯住宅に生まれ変わったAさん宅。
ご両親らの生活スタイルはそのままに、子どもたちの成長に合わせて間取りを変更できるようフレキシブルな空間設計を取り入れました。
可動間仕切りで空間をアレンジ
■完全分離タイプの二世帯住宅
「実家の老朽化が進み雨漏りなどがひどくなったこと、同僚や友人の間でマイホームを購入する人が増えてきたこと。家を建てようと思ったきっかけは、そんなタイミングが重なったからでしょうね」と話すAさん。結婚後はアパート住まいを続けながら、いつかは家をと考えていましたが「実家を建て替えて二世帯住宅にすることしか頭になかった」そうです。
しかし何から手を付けてよいのか見当が付かず、旧友の建築士を訪ねて相談すると、「まずはいろいろな物件を見て目を肥やしたほうがいいよ」とのこと。Aさんはその助言通りに完成見学会へ足しげく通い、建てたい家のイメージを膨らませました。そして「遠慮なく物を言えたほうが理想の住まいに近づけそうだ」と正式に旧友への依頼を決め、本格的な家づくりがスタートしました。
プランの策定に当たっては、Aさん一家の要望と、実家で暮らしていたご両親らの意向を調整する必要がありました。当初は水回りなどを一部共用することも検討していましたが、生活スタイルの違いを考慮して完全分離型の二世帯住宅に。一階のご両親の住まいは新居の暮らしがストレスにならないよう間取りを大きく変えることなく、一番座、二番座と続く昔ながらの造りにして、二階のAさん宅の設計は、建築士と打ち合わせを重ねながら自由に組み立てていきました。度重なる完成見学会の訪問の成果は、白を基調にしたシンプルモダンなインテリアに強く反映されています。
2階テラスにはウッドデッキを設置。フローリングと同系色で段差もなく、室内と一体化して使用できます
LDK全景。写真右手の空間は将来の子ども室。現在は開閉式の間仕切り壁を開け放ち、リビングの一部として使用しています
床面積の合計が200㎡を超えると排煙規制にかかるため、Aさんの書斎はロフトで対応。折り畳み式の階段で出入りします
■可変式の間取りで空間を有効活用
Aさんとご両親の新居は今年五月に完成。木造平屋の赤瓦の古民家が、鉄筋コンクリート造の二階建て住宅に生まれ変わりました。
上下階を結ぶ通路は外階段一本。二階のAさん宅の間取りは一階と異なり、家の中央に大きく南に開いたLDKがあり、その東側に三人の子ども室、西にご夫妻の主寝室があります。キッチンを含めた水回りだけは階下と同じ北西の位置にまとめられていますが、これは配管設備を一カ所に集めてコストダウンを図る仕掛けの一つです。
子ども室は家具や可動間仕切りで三つのスペースに分けることができる可変式に。今はまだお子さまが小さいのですべて開放して使用していますが、「それでも小学生の二人はやがて自分だけの部屋が持てるとあって大喜びです」とAさん。一方で主寝室にはロフトを設け、限られた予算とスペースの中で「書斎を持ちたい」というAさんの要望をうまくかなえました。
ご両親らの評判も上々です。以前の住まいと間取りがほぼ変わらない上、住宅金融支援機構の住宅ローン「フラット35S」の優遇措置が受けられるようバリアフリー性能に配慮。段差が少なく要所に手すりが設置されるなど、使い勝手が格段に向上しました。
家づくりを振り返り、「勉強しなければいけないことが多過ぎてとても大変でした。それでも施工業者の方が丁寧に説明しながら工事を進めてくれたので、着工後は大きな変更もなくほぼイメージ通りに仕上がりました」とAさん。これからは「友人をたくさん呼んで、にぎやかな家にしていきたいですね」と意気込んでいます。
芝庭と一体化した一階親世帯。旧盆時には庭にシートを敷いて多くの親類が集まりました
二階子世帯のキッチンからの眺め。コンロは両世帯ともIHを導入
外観はシンプルな色合いでまとめられ、アプローチ中央に置かれた赤茶色のヒンプンがアクセントに。生け垣の樹木が成長すれば程よい目隠しになりそうです
伝統的な間取りの親世帯とフレキシブルな子世帯。異世代の独立性を保つ二世帯住宅
■通風や家事動線を意識したゾーニングで住み心地を高める ――
建築士・金城敦志さん談
建て替え前にAさんのご両親が住んでいた家は典型的な沖縄民家。そのため一階の親世帯は、新築後の生活に違和感を感じないよう以前の家の造りを踏襲しつつ、現代風にアレンジすることを心掛けました。またAさん宅は親類が集まることが多いので、大開口のアルミサッシで居間とぬれ縁をつなぎ室内外を一体化して使えるよう計画しました。
一方で二階の子世帯は、Aさんの要望や生活スタイルに合わせて自由にプランニングしました。三人の子ども室は成長に合わせて空間を自在に仕切れる可変式の造りにして、寝室には床面積に含まれない天井高一・四メートル以下に抑えたロフトを設置。また家事動線にも配慮してキッチン横に水回りをまとめ、洗濯干し場は屋根を付けてマスブロックで囲み、風雨や外部の視線を遮断しました。
設計中、常に意識したのが通風計画です。南側の開口部を大きく開き、入ってきた風が各室の窓へ抜けるよう工夫しました。Aさんに確認したところ、エアコンの出番はかなり少ないとのこと。設計の意図は成功しているようです。
Aさん一家とご両親らの生活スタイルがまったく異なることから、構造的には玄関や水回りをそれぞれ独立させた完全分離型の二世帯住宅にしましたが、設計に当たっては「つかず離れず」をキーワードに、上下階で生活は独立しつつも大家族のつながりを感じられる距離感を大切にしました。社会の急速な高齢化や現在の土地事情を考えると、今後は老朽化した実家の土地に二世帯住宅を建て替えるケースが増えてくると考えています。
一階親世帯の室内の眺め。和室の天井にタモ材を配するなど木目調の内装にまとめました
二階リビング。主開口部の上には採光・通風用の小窓を設けています
洋室の子ども室は可動家具を並べて仕切ります
二階子世帯は隣地からの視線を考慮して、トップライトを四カ所設け採光を高めました
金城敦志さん
■家づくりのヒント
■ライフサイクルに柔軟に対応する可変式の子ども室
2階子世帯の子ども室には、リフォーム工事をすることなく自由に間取りを変更できる間仕切り部材を導入。ダイニング横の洋室にはキャスター付きの可動式家具を置き、これを動かすことで簡単に室内を仕切れます。またリビングとの境界には開閉式の間仕切り壁を設置。現在はすべて開放し、広々したLDKとして利用しています。
- ■バモス建築設計室
- 豊見城市豊崎1-1183 オアシスSUNSUN102
- 家族構成:
- 1階/両親、娘、祖父、
2階/夫婦、子ども3人 - 所 在 地 :
- 八重瀬町
- 設 計:
- バモス建築設計室
- 敷地面積:
- 536.01㎡(約162.14坪)
- 建築面積:
- 130.71㎡(約39.54坪)
- 延床面積:
- 199.95㎡(約60.48坪)
- 用途地域:
- 第1種低層住居専用地域
- 構 造:
- 鉄筋コンクリート造
- 完成時期:
- 2010年5月
- 施 工 業 者
- ●建築/株式会社金城組 伊是名隆
- ●水道/株式会社共立技研 源河武司
- ●電気/有限会社浦崎電設 大城修
- ●サッシ・キッチン/有限会社日光建創 桃宇克浩