沖縄の家週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション
焼杉板の外壁と片流れの屋根が印象的な、モダンなたたずまいのCさん宅。
床や柱、天井には無垢の杉材をふんだんに使い、壁は県産の漆喰で仕上げた、自然のぬくもりあふれる木の住まいです。
団らん育む無垢材の家
■木の家の良さを知る
閑静な住宅街の角地にあり、道路一本を挟んで公園を望む、南東に開いた好立地。ここはCさんが、「明るくとても気持ちが良くて、マイホームの計画を始めてからずっと目を付けていました」という、3年越しで手に入れた念願の土地です。家は東を正面にして建ち、L字形に大きく取られた玄関を上がると、天井まで吹き抜けになったリビングダイニングと和室が、ひと続きになってまっすぐ広がっています。床は杉の無垢フローリングで、室内に突き出た梁や柱の存在感と、すべて造り付けの木製建具の素朴な質感が、木の家ならではの温かみある雰囲気を演出しています。
木の家の住み心地の良さにご主人が気づいたのは、住宅の見学会を回り始めてしばらくたってからでした。「一人前の大人として、一軒家を構えたい」と家づくりをスタートしたのは6年ほど前のこと。当初は木造に関心はなかったものの、想像以上に性能の高い現代の工法・構造と、「私の実家が昔ながらの木造住宅で、とても暮らしやすかったんです」という奥さまの薦めに、徐々に感化されていきました。
数多く訪れた業者の中から依頼先を決めた理由は、「一つのことを聞けば十の提案を返してくれる。建築士さん自身、家づくりが本当に大好きな姿勢がよく伝わってきたから」と言います。打ち合わせでは新居のイメージとして、間仕切りを少なくオープンな造りにすること、家の中心にLDKを置き、吹き抜けにして開放感を出すことなど、大まかな要望を伝えてプランを作成。建築中は実際の使い勝手を考慮しながら、壁にニッチを設けたり、カウンターの高さを調整したり、臨機応変に対応してもらいました。
リビングで一家団らん。床や梁などに使われている杉材は、油分を多く含み丈夫でシロアリにも強いとされる宮崎県の飫肥(おび)杉です。壁の漆喰は、沖縄の素材だけで作られた「琉球の塗壁」を施工しました
東の和室から1階全体を眺める。写真右手に見えるカウンターは、床に腰を下ろした人と無理なく視線が合う高さに調整しました
キッチンはヒノキ材を使い、奥さまの要望に合わせてオリジナル仕様で仕上げました。写真正面の窓の向こうに公園が見渡せます
主寝室。下に引き出し収納を設け、床を一段高くしました。ちょっと腰掛けて洗濯物を畳むなど、家事室としても重宝します
焼杉板の外壁材は、古くから日本家屋で親しまれています。家の向きに合わせて屋根の形状を決定し、新築に合わせて太陽光発電を導入しました。公園側にも窓やベランダなどを設け、眺めが楽しめるように工夫されています
■居心地高める工夫を随所に
焼杉で覆われた格調高い外観と、無垢材があらわになった室内の雰囲気に、見た目の主役こそ奪われがちですが、実生活で司令塔となるのは何といってもキッチンです。キッチンに立ち正面を向けば1階全体を見渡すことができ、リビングダイニングと和室の掃き出し窓を通じて、デッキ越しに駐車場まで目が行き届きます。左手には3人のお子さまの勉強机にもなる多目的のカウンターがあり、右手の窓の外に目をやれば、公園ののどかな光景が飛び込んできて、心が和みます。
リビング側からは見えないキッチンの裏には、プライベートスペースと水回りがまとまっています。南北に延びる廊下に沿って、主寝室、クロゼット、洗面脱衣室、バスルーム、化粧室が連なり、キッチンの左右どちらからも回り込むことができます。
キッチンが司令塔なら、家族というプレーヤーが集まる場所はリビングダイニングです。キッチン前には、ご主人が職人と一緒に作った無垢材の座卓を置き、食事をしたり、くつろいだり、団らんしたり、いわゆる“茶の間スタイル”で暮らしています。2階は間仕切りも何もないオープンスペースで、吹き抜けを介して階下とつながっているため、どこにいても家族の気配が感じられます。
そして見逃してはならないのが、階段下のデッドスペースを活用して設けられたご主人の書斎です。ここは建築中に建築士から提案があり、急きょこしらえてもらったものです。「適度なプライベート感があって、とても落ち着けるんですよ」とご主人。木の味わいを生かしたオープンな造りの中に、居心地を高める工夫が随所に光る、そんな住宅です。
L字形の玄関のコーナーは壁になっており、キッチンが直接見えないように配慮されています。右手のガラス戸を通じて駐車場と行き来できます
階段の真下に位置するご主人の書斎。とっておきの床下収納も設けました
回遊性のある動線の中に、立地の良さを生かして眺めを取り込む
■焼杉外壁材、杉の無垢フローリング、複層ガラス、樹脂サッシなどを標準施工――
一級建築士・伊良皆盛栄さん談
Cさん宅の設計ではまず、敷地の南に公園があるロケーションの良さを生かすことを考えました。南東が道路に面した角地にあるため、公園からの視線に配慮して東を正面にするとともに、台所作業をしながら公園が眺められる位置にキッチンを配置しました。また主寝室も日中は家事室として使えるよう南端に置き、公園側に大きく開口部を設けました。
室内のプランニングでは、すべての空間に回遊性をもたせ、ぐるぐる回れる動線を組み立てました。その中でも和室は家の東側に、水回りは西にまとめるなど、沖縄の伝統的な間取りを意識しています。
2階は間仕切りのないオープンなスペースの中に、床面積に含まれないよう天井高を1.4メートル以下に抑えてロフトを設置しました。3人のお子さまの個室はなくても、用途を定めず自由に使える“遊び心地”のいい空間になっています。
無垢の杉材や琉球漆喰などの建材はすべて、私たち琉球住樂が標準で使用しているものです。焼杉板の外壁材は、表面を炭化させることで丈夫さを増し、腐食の進行が抑制され、経年変化していく木の風合いを楽しめます。また省エネ性を高めるために、開口部には遮熱性・断熱性に優れた複層ガラスと、気密性の高い樹脂サッシを施工。断熱材も屋根に25ミリ厚、焼杉板と躯体の間に15ミリ厚の材料を外張りしています。
戸や収納などの建具は現場で造り付けしました。既製品と異なり、間取りに合わせてサイズを調整できるので、空間設計の自由度が高まります。
2階はロフトがあるだけのフリースペース。写真左手の西側の窓は、複層ガラスの効果で熱の侵入が抑えられるので、開口部をやや大きめに取ることができます。壁の漆喰の一部は、記念に子どもたちの手形を付けて施工しました
ダイニングテーブルやカップボードなどの家具はすべて造り付けです
床の間の壁は月桃繊維入りの漆喰で仕上げるなど、居室ごとに微妙に変化をつけています
和室の窓の外には腰掛けられる大きさのデッキを設置。屋外の憩いのスペースになっています
伊良皆盛栄さん
■家づくりのヒント
■家族の親密度を高める現代的な“茶の間”空間
日本の住宅で古くから親しまれてきた“茶の間”は、家の中心に位置する家族団らんの場所。フローリングの一部を畳に替えて、座卓を置いたダイニングスペースは、Cさん宅の“茶の間”として機能しています。対面キッチンが目の前にあるため台所仕事中でも会話を交わすことができ、子どもたちは座卓を基点にリビングと和室の間をぐるぐると、自由に遊び回ることができます。
- ■株式会社琉球住樂
- 南城市玉城愛地697-1
- http://10raku.co.jp/
- 家族構成:
- 夫婦、子ども3人
- 所 在 地 :
- 沖縄市
- 設 計:
- 株式会社琉球住樂 一級建築士事務所(伊良皆盛栄、嶺井典子)
- 敷地面積:
- 148.77㎡(45.00坪)
- 建築面積:
- 85.31㎡(25.80坪)
- 延床面積:
- 101.00㎡(30.55坪)
1階74.51㎡(22.53坪)
2階26.49㎡(8.01坪) - 用途地域:
- 第1種中高層住居専用地域
- 構 造:
- 木造2階建て
- 完成時期:
- 2012年5月
- 施 工 業 者
- ●建築/株式会社琉球住樂(馬場章悟)
- ●大工/ユークリッド企画、孝枝建
- ●電気/テルヤ電業
- ●水道/有限会社海西工業
- ●左官/有限会社仲松左官工業
- ●建具/株式会社エクセルシャノン、
有限会社照屋木工所 - ●造園/金勢造園