沖縄の家週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション
ウッドデッキをコの字型に配したMさん宅は、子どもたちが家の内と外の境界を越えて自由に動き回る楽しい住まい。
夫婦こだわりの機能やデザインも随所に反映され、潤いのある暮らしを満喫しています。
家族の居場所をつなぐコの字型の家
■庭のある家でオープンに暮らしたい
昨年12月に完成した名護市のMさん宅は、夫妻と5歳、4歳、2歳の育ち盛りのお子さまのいる5人家族です。以前は名護市内のアパートに住んでいたそうですが、子どもたちの成長とともに部屋は手狭になり、奥さまは外出のたびに子どもを抱えた手で荷物を持ち、さらに上の子の手を引いて階段を昇り降りするという状況でした。「主人が留守の時は大変でしたけど、子どもって一歩外に出るだけで満足しますからね。その頃の夢は、広い庭のある家に住んで子どもたちを好きなだけ外で遊ばせることでした」と奥さまは言います。
Mさん夫妻は、住宅完成見学会へ足を運ぶなどして家づくりの情報を収集するうちに、理想とする住まいの形が見えてきたと言います。「両親から譲り受けた土地の広さを生かして、子どもたちが庭と家の中を自由に行き来できるオープンな暮らしが理想。また、収納や家事動線などが機能的で片付けがしやすく、明るく風通しのよいモダンな空間に、木の温かみを加えたいと思いました」
設計は、打ち合わせなどの利便性を考慮した結果、名護市に拠点を構える設計事務所へ依頼しました。「建築士さんは、私の職場の隣にある建物の設計を手がけた方。色彩や形が印象的で、お年寄りの多い地域性に配慮して屋外に休憩所を設けるなど、人や地域に優しい設計だと感じたのも依頼の決め手になりました」とMさんは振り返ります。
右/玄関土間は愛車の自転車を置いてもゆったりと使える広さを確保しました。壁にお気に入りの絵を飾り、ギャラリー風に演出しています
左/木組み天井の美しさを生かしたモダンな和室は、効率的な配置により、おもてなしの空間としてだけでなく日常生活でも存分に活用されています
ウッドデッキを挟んで右側がプライベート空間、左側がパブリック空間です。キッチンに立っているときも庭で遊ぶ子どもたちの様子を見守ることができます
室内外の一体感をつくり出すL字型の大きな開口部には、念には念を入れて木製の雨戸を備えました
道路に面した西側はプライバシーに配慮し、ハイサイドライトやスリット窓を設置。緑色の瓦屋根が外観のアクセントになっています
■ウッドデッキは生活空間の一部
Mさん宅はウッドデッキをコの字型に囲み、道路に面した西側にリビングと和室、東側に寝室と子ども室を配した平屋建てです。アプローチをくぐって玄関扉を開けると、自転車3~4台は置ける広々とした玄関土間になっています。視線は、天井の高いリビングや木組みをあらわにした和室へと続き、L字型に切り取った大開口部から庭へと抜けていきます。パブリックスペースに当たるこの一角は、モダンな中に開放感を創出して、実際の面積以上の広さが感じられます。
「ウッドデッキは子どもたちの格好の遊び場であり、生活空間でもあります。天気のよい日は必ずここで食事をしますよ」と奥さまはにっこり。室内や庭の様子が見渡せる家の中心部には、アイランド型のキッチンを配置しました。「このキッチンは大正解。どの方向からも手伝えて便利ですし、目に付く場所なので常にきれいにしようと意識します」と家事に協力的なMさん。
廊下の両サイドには大容量の収納棚、子ども室には学習机とクロゼットを一体化した可動式家具を造り付けて、子どもたちの成長に伴い増えてくる荷物の収納スペースを用意するなど、子どもたちのことを第一に考えた暮らしぶりが印象的なMさん宅ですが、夫妻が敬愛する美術家の作品を家中に飾ってアートを楽しむ一面も。今は外で遊ぶことに夢中な子どもたちもアートの楽しさに目覚める日が来るかもしれません。
リビングに設置したL字型のハイサイドライトは、空の眺めを美しく見せながら外からの視線を遮ります。リビングと玄関土間は隣接していますが、玄関扉の位置に角度がついているので内部が丸見えになることはありません
玄関側からキッチンとリビング、和室のつながりを見る。子どもたちはL字型の開口部からウッドデッキを通って子ども室へ自由に行き来しています
住宅としての機能美を追求する
■機能と要望を立体的につなぎ合わせる ―― 担当者・平野みのりさん談
Mさん宅の敷地の東側の隣地は中高層住居専用地域です。この敷地環境の中で、プライバシーを守りながら光と風を確保するためにも隣地に高層マンションが建つなどのケースを想定し、建物は敷地の北側に寄せて南側の庭に開いたコの字型のプランを考案しました。Mさん宅の設計のテーマは機能美です。夫妻は家づくりをとても勉強されていたのでイメージが明確で、「広いウッドデッキ」「シンプルモダンな中に木の温もり」「広い玄関土間」「フレキシブルに使える寝室」など具体的な要望がいくつもありました。私たちはそれらを精査した上で、コストとのバランスを図りながら、無駄なものはそぎ落とし、必要な機能は残して立体的につなぎ合わせ、さらにデザインをプラスアルファの形で取り入れることで、住宅としての機能美を追求しました。
具体的には、寝室の天井高は2メートル40センチと最小限の高さに抑えていますが、リビングなどのパブリック空間は2メートル85センチの高さを確保。必要な天井高を居室ごとに設定することで、空間にメリハリを付けると共にコストダウンにもつなげました。また、L字型に開口したウッドデッキ側の窓やリビングの高窓は、コーナーに柱があったほうが設計するのは楽なのですが、それでは視覚的に邪魔で室内の印象もだいぶ違ってきます。そこで柱の代わりに梁を太くすることで構造上の強度をクリアし、デザイン性と機能性を両立しました。
間取りのポイントとしては、ウッドデッキをコの字型に囲んで室内と一体化させ、生活空間の広がりと子どもたちが伸び伸びと遊べる回遊動線を確保したこと。そのほか、洗濯干し場は廊下と並列に配し、出入口をキッチンと脱衣室の2カ所に確保するなど、コンパクトかつ回遊性のある生活動線を実現しており、家事や育児に多忙な夫妻に喜ばれています。
リビング側からキッチンを見る。右手奥に見える廊下と並んで、水回り、洗濯干し場が配され、回遊動線が確保されています
右/デッドスペースになりがちな廊下の両サイドに大容量の収納庫を確保してスペースを有効利用しています
左/洗濯干し場。下部のルーバーから風が流れ、トップライトから日光が入るので、雨を気にせず洗濯物が干せます
夜は外灯や室内からの明かりが建物をより立体的に見せ、アプローチ沿いに設置したLEDライトが足元を優しく照らします 写真提供・美音SpaceDesign
右から比嘉伝英さん、平野みのりさん
■家づくりのヒント
■アプローチの屋根を外観のアクセントに
Mさんは当初、屋根のないアプローチを考えていたそうですが、計画の途中で屋根付きに変更。しかし、細長いアプローチの屋根となると外観のイメージに大きく関わってくるため、設計担当者は機能性に加えデザイン性を検討し、屋根を支える柱をクロスさせたインパクトのある形を提案しました。屋根の柱の位置が玄関扉側に寄っているため中が見えにくく、屋根のおかげで雨の日でも駐車場から快適に移動できます。
- ■美音SpaceDesign株式会社
- 美音SpaceDesign株式会社は美しい音を奏でる建築&都市空間を創造し社会へ貢献する会社です。
- 名護市城1-7-11-302
- http://www.bionsd.co.jp
- 家族構成:
- 夫婦、子ども3名
- 所 在 地 :
- 名護市
- 設 計:
- 美音SpaceDesign(株)
担当者名/比嘉伝英、前里敬、
平野みのり - 建 築:
- (有)くくる 担当者名/翁長卓弥
- 敷地面積:
- 350.66㎡(106.08坪)
- 建築面積:
- 124.63㎡(37.70坪)
- 延床面積:
- 113.19㎡(34.24坪)
- 用途地域:
- 第一種中高層住居専用/第一種低層住居専用
- 構 造:
- RC造 一部木造小屋組み
- 完成時期:
- 2010年12月