沖縄の家週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション
限られた低予算の建築費で建てた當間さん宅は、キッチンを中心にした遊び心のある住まい。
約20坪の建坪とは思えない開放感をつくり出し、伸びやかな暮らしを楽しんでいます。
キッチンから広がる家族の輪
■ローコスト住宅に要望をすべて盛り込む
「幼いころの病気が原因で長男の耳に障害が残り、大きな声で日常会話をする必要がありました。アパート暮らしだとお隣さんに迷惑が掛かってしまうので、中古でもいいから一戸建てに住もうと思いました」と家づくりの動機を振り返る當間さん。長男の通学に便利なエリアに絞って中古物件を探したそうですが、目ぼしい物件は見つからず、不動産会社から紹介された約40坪の土地を購入し、家を新築することにしました。
しかし、設計事務所や建築会社から低予算を理由に断られる日が続き、當間さん夫妻は建築士との家づくりを諦めかけていました。そんな中、ローコストながらも、暮らしやすさとデザイン性を両立した家づくりをしている設計事務所をインターネットで見つけ、ダメ元でその建築士に相談。予算や要望を率直に伝えると「頑張ってみましょう」と、設計を引き受けてもらえることになりました。
3台分の駐車スペースや庭があり、キッチンを中心にした3LDKの家…。マイホームのイメージはあるものの、建坪は20坪程度しか取れず「物理的にも予算的にも、すべての要望は盛り込んでもらえないだろう」と當間さん夫妻は考えていました。しかし、出来上がったパース画にはすべての要望が反映。プランをひと目見た奥さまは、感動のあまり泣きそうになったと言います。
右/玄関。夜は靴箱の下に設置した照明が足元を照らします。写真左手の扉はシュークローク、右手は上部にすりガラスを設置した寝室の壁
左/広さも造りも全く同じ子ども室を2部屋確保。開口部を高い位置に設置して、道路からの視線を遮りつつ効率的な通風採光を実現
多彩な開口部のおかげで明るいLDK。右手に見えるのは子ども室の扉。欄間部分はすりガラスなので、扉を閉めた状態でも気配が伝わってきます
■アメリカ生活の思い出を形にしたキッチン
建物と門扉にあしらったスマイルマークが目印の當間さん宅は、補強コンクリートブロック造のコンパクトな平屋建て。家族憩いの場であるLDKには、南向きの掃き出し窓とハイサイドライトを設置しており、光を取り込みながら、実際の床面積以上の広がりをつくり出しています。
コの字型のキッチンに設置されたカウンターは、當間さんが高校生のころに住んでいたアメリカでの思い出を形にしたもの。「ダイニングは別にあったけれど、食事をするのはいつもキッチンのカウンター。母親が料理しているかたわらで宿題をしたり、おやつを食べたりしていました。今も当時と同じでキッチンが生活の中心です」と當間さん。
ワークトップに施されたモザイクタイルがインテリアに溶け込み、インターネット通販で手に入れたというホーロー製のシェードライトが食卓を優しく照らしています。アンティーク調の家具や子どもたちが好きそうなフィギュアなど、こだわりがあちらこちらに散りばめられ、新居での暮らしを心から楽しんでいる様子が伝わってきます。
奥さまが希望していた庭も確保。當間さんは「建築士さんと施工業者さんのおかげで、満足のいく家づくりができました。コンパクトな家ですが、伸び伸びと過ごせます。子どもたちも狭いなりに工夫して、いつも楽しそうにしていますよ」と、うれしそうに話していました。
寝室。クロゼットの上下にも窓を設置して北側からも採光。奥のドアは坪庭へとつながっています
トップライトから光を取り込んで、日中は安定した明るさを確保しているキッチンスペース。ワークトップの材料はメラミン化粧板も候補に挙がったそうですが、リーズナブルに仕上げるためにモザイクタイルを選択。インテリアの一部にもなっています
右/浴室にもモザイクタイルを施して坪庭を併設。開放的なバスタイムを演出するとともに、窓を開け放てば湿気はすぐに排出されます
左/トイレ。ダークブラウンの壁が照明の明かりを引き立てています
限られた空間やコストをバランス良く配分し、豊かな住環境をつくる
■プランのキーワードは「適材適所」―― 建築士・赤嶺しげたかさん談
敷地は、約40坪の広さで3面を道路に囲まれているせいか、長い間空き地だったようです。しかし、東・南・北側が道路に面しているため通風採光に有利ですし、西側の2階建ての隣家が西日対策の役割を果たしており、考え方によっては好条件といえます。この敷地に施主は3台分の駐車スペースと庭を備えた3LDKの家を、限られた低予算内で建てることを望んでいました。
プランニングでは建築費を抑えることが一番難しく、寝ても覚めてもコストのことが頭の中から離れなかったほどです。そこで、私の好きな四文字熟語「適材適所」をプランに当てはめ、無駄な材料や装飾、スペースを徹底的になくしてコスト削減につなげる一方で、フローリングやカウンターなど毎日肌に触れる素材は、良質なチークの無垢(むく)材を採用。ご家族の暮らしに合わせたバランスの良いコスト配分を心掛け、豊かな空間づくりを追求しました。
平面計画のポイントとしては、居室の広さを必要最小限にして建築面積を抑えたほか、風水の基本に沿って、南東から夏場の通風と冬場の採光を得られるようにし、水回りは北西側に集約。無駄なスペースになりがちな廊下を省き、生活の中心となるLDKは可能な限り広くしました。LDKの並びに配した子ども室には、多目的に利用できるロフトを造り付け、秘密基地やベッドにしたり、あるいは収納スペースにするなど、将来にわたって空間を隅々まで使いこなせるようにしています。また、シンクや水栓、IHクッキングヒーターなどのキッチン設備は、安く仕入れられる製品を選んで建築工事に組み込んで設置しました。
私たちの事務所では、家族全員が家づくりに参加できるよう、内装に関わる素材選びはできるだけ家族への「宿題」にしています。家族会議の中で決めたことが家づくりに反映されると新居への愛着も強くなりますし、何よりも家族の絆が深まると考えているからです。もちろん、質問があればいつでもアドバイスします。當間さん宅では、施主自身にインターネットで照明器具を調達してもらい、コスト削減を兼ねながら家づくりを楽しんでいただきました。
駐車スペースには植栽ブロックと砂利を敷き詰めています。建物左手の扉は屋外倉庫です
リビングに面した南の庭。杉板の塀のおかげで、窓を開け放したままでも伸び伸びと過ごせます
かわいらしいグリーンで演出したポーチ。玄関ドアは當間さん宅の雰囲気に合わせて制作しました
優しい明かりに包まれると1日の疲れも癒やされます
写真提供・一級建築士事務所simple
掃き出し窓とハイサイドライトで床面積以上の広がりを創出
赤嶺しげたかさん
■家づくりのヒント
■門扉の笑顔につられてご近所もにっこり
杉板の目隠し塀に合わせて作られた門扉は、取っ手の金具代わりの穴を使って『スマイル』をデザインし、コストを抑えつつ遊び心を添えました。ご近所の方々にも「今まで空き地だった場所に楽しい家が建った」と喜ばれているそうです。
- ■一級建築士事務所simple (しんぷる)
- うるま市塩屋510-1 #105
- http://simple2525.com
- 家族構成:
- 夫婦、子ども2人
- 所 在 地 :
- 沖縄市
- 設 計:
- 一級建築士事務所simple
担当/赤嶺しげたか、上間美智代 - 敷地面積:
- 134.74㎡(40.75坪)
- 建築面積:
- 68.23㎡(20.63坪)
- 延床面積:
- 64.48㎡(19.50坪)
- 用途地域:
- 第一種低層住居専用地域
- 構 造:
- 補強コンクリートブロック造
- 完成時期:
- 2012年1月
- 施 工 業 者
- ●建築/(有)仲真組
- ●水道/(有)島設備
- ●キッチン/simple+パナソニック(担当・佐久川涼子)
- ●電気/セブン電設