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沖縄の家週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション

沖縄の家selection51

低木や芝生、琉球石灰岩で敷地を緩やかに囲んだIさん宅。
高耐久コンクリートで建てられた住まいは、昔ながらの民家に似た間取りで南に大きく開き、無垢(むく)材の家具や漆喰などの塗り壁が優しい空間をつくり上げています。

経年変化が楽しみな家

経年変化が楽しみな家

■室内は自然素材をふんだんに

 家づくりにはあまり興味がなかったというIさんは、シビアに資金計画を立てる奥さまに背中を押され、一念発起し、八重瀬町に宅地開発されたばかりの土地を見つけ購入。建築士との出会いは身近な所にありました。
「以前住んでいたアパートの目の前で、住宅の建築工事があったんです。設計事務所の方が頻繁に現場に来て、遅くまで対応している姿が印象に残っていました。散歩中に気に入った建物を見つけて調べたら、偶然にもその設計事務所が手掛けた家だったのです。完成見学会にも数多く足を運びましたが、私たちにはここが一番合っていると思いました」とIさんは振り返ります。
 エアコンに頼らない暮らしを実践していたIさん夫妻にとって、新居が明るくて涼しいことは必須条件。内装については、柿渋や漆喰の塗り壁が醸し出す、素朴な風合いを好みました。建物の基礎や躯体には、高耐久コンクリートの施工法を取り入れることに。
「建築士さんから、建物に強度があって長く保てると伺いました。柿渋や漆喰は、私たちにも塗れると聞き、ぜひ挑戦したいと思いましたね」と話すIさんは、ほかの現場で漆喰塗りを経験したり、マイホームのコンクリート打設に参加するなど、積極的に家づくりを楽しみました。中でもコンクリート打設現場では、大勢の人が家づくりにかかわる姿に感動を覚えたと言います。

経年変化が楽しみな家

南の庭に向かって開いたリビングスペースには、あえてソファを置かずに伸びやかに使っています。間仕切りを閉じれば和室は独立します

経年変化が楽しみな家

ハイサイドライトから光が差し込む明るいキッチン。手持ちのレトロな食器棚や無垢材で造られたダイニングテーブルが空間に溶け込んでいます

経年変化が楽しみな家

上部から光を取り入れた明るい玄関。琉球石灰岩や漆喰など、自然素材で構成された空間が大嶺実清作のシーサーを一層引き立てます

経年変化が楽しみな家

ざっくりとした造りのキッチン。内外自由開きの向こうは玄関となっており、買い物帰りはとても重宝しそう

経年変化が楽しみな家

窓の表情が楽しい子ども室。隣の寝室とひと続きにし、可動式間の仕切り壁を設置しています。駐車スペースに面した窓はルーバーでほどよく目隠し

■回遊性の高い間取り

 完成した住まいは、南側の庭に向かって大きく開いた平屋建て。境界塀の代わりに琉球石灰岩を積んで色とりどりの花木を植えています。庭だけでなく、屋上にも緑化を施し、Iさん宅は緑にあふれています。
 玄関ドアを開くと、琉球石灰岩敷きのエントランス、漆喰の塗り壁や無垢材など、自然素材の醸し出す優しい空間が広がります。漆喰や柿渋の塗布は、Iさんの友人らの協力によるもの。塗りむらもまた、味わいある雰囲気を表現しています。間取りは、キッチンを中心にして、ぐるりと回遊できるのが特徴。南側の表座にはLDKと和室を二部屋、北側にあたる裏座には子ども室や主寝室などがあります。同居に備え、和室を二部屋確保し、納戸や和室の段差を生かした床下収納など、収納スペースも充実させました。
 住まいの中心にあるキッチンは奥さまのこだわりです。
「予算の関係でキッチンは内装工事で造ってもらいました。引き出し三段のざっくりとした造りで、使い勝手もいいですよ」と奥さまは満足そう。古道具風の食器棚やオリジナル製作のダイニングテーブルとの相性もぴったりです。光を取り込み、熱気を排出するために、キッチン上部にはハイサイドライトを設置。天井に傾斜を付けて、表情豊かな空間をつくり出しました。この一角は、まるで映画のワンシーンのようです。
 第二子が誕生したばかりで多忙な日々を送るIさん夫妻。それでも、「多くの方々の力を借りて完成させた住まいですので、街並みに少しでも貢献できるよう心掛けて住んでいます」と庭の手入れにも気を配ります。愛着を持って住めば住むほど、味わいとなって返ってくる。そんな住まいです。

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リビング隣の和室は段差を付けて床下収納を確保。半月状のニッチスペースがアクセントになっています

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床は濃紺のモザイクタイルを選び、窓際にはニッチスペースを付けて。トイレも楽しげな空間に演出

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●漆喰や柿渋塗りは自分たちの手で
Iさん宅のコンクリート表面は、高耐久コンクリートの施工法により、ガラス質で覆われた良好な仕上がりでしたが、室内に優しい雰囲気をつくり出すために、漆喰の塗り壁を採用することにしました。友人やその家族にも手伝ってもらい、延べ二十名が二日がかりで仕上げたそう。建具や床などの木部分の柿渋塗りは約一日。この経験は、楽しい思い出になるだけでなく、今後のメンテナンスにも役立ちます。 写真提供/アトリエ・ネロ

躯体は高耐久、内部は自然素材

■開放的な沖縄民家がベース ―― 建築士・根路銘安史さん、水上浩一さん談

 Iさん宅は、開放的で心地良い風が通り抜ける、昔ながらの沖縄民家がベースとなっています。表座に和室や広間を配置し、光と風を十分に取り込むために、南に向かって大きく開口。その先にある庇とぬれ縁が日差しを程よく遮ります。また、断熱対策として屋上緑化を施しています。
 建物の中央部に配したキッチンの並びに玄関と納戸、裏座にはプライベートスペースを配置。キッチンと玄関の間の扉を内外自由開きにしたり、クローゼット内からも通り抜けるようにするなど、効率的な動線を追及するうちに、必然的にキッチンを中心にした回遊性の高い間取りになりました。
 建物の中央部にあるキッチンは暗くなりがちですので、天井を上げてハイサイドライトを設置しました。ほかの部屋の天井高が約二・五メートルに対し、キッチン天井の一番高い所は約三・六メートルあり、ここは熱気を室外に排出する役割もあります。
 部屋を仕切るためだけの壁はほとんど造っておらず、シンプルな空間構成がローコストにつながっています。キッチンと寝室の間にウォークインクローゼットを入れて空間を分けていますが、建物の中央部に近いこの部分に木壁を持ってくることで、空間の自由度を上げています。つまり、木壁を撤去すれば将来のライフスタイルの変化に対応できるというわけです。
 Iさん夫妻が愛用している家具は、無垢材でしっかり作られたものばかりですので、それらの存在を空間になじませるためには、漆喰などの自然素材を用いるのがベストであると考えました。それぞれの質感が調和し、施主のスタイルに合った空間に仕上がったと思います。内部は自然素材を生かした造りですが、基礎や躯体のコンクリート、スランプ10センチ(水セメント比51%)の生コンクリートを使用し、強固で高耐久にするための施工法を実践。ひび割れのないコンクリートで建物を造ることで、建物長寿命化を目指しました。

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ダイニングスペース隣の和室にも大容量の収納庫を確保。キッチンの並びにあるドアは納戸です

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軒下にフックを付けているので、ゴーヤー棚やよしずの取り付けも簡単。以前は境界沿いにヒマワリを植えていたそう。開放的に暮らしながらプライバシーを守る工夫が見られます

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屋上緑化。中央に見えるのはキッチンのハイサイドライトです。手前の芝生スペースは40センチメートルほどの深さがあり、野菜作りも可能

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駐車スペース側から見たIさん宅

経年変化が楽しみな家

屋上へと続く階段の一部は、琉球石灰岩と芝生で築きました

■家づくりのヒント

■高耐久コンクリート打設について

屋比久潤さん

従来の住宅のコンクリート打設は、10名程度の作業人員で対応できるのですが、スランプ12cm以下の流動性の少ない生コンクリートを使った打設では、25名くらいの人員が必要になります。バイブレーター等による再振動や踏み固め作業の徹底、現場の意思疎通も含め綿密な打設計画の手順通りに作業を進めるのも重要です。打設後は、サポーターを撤去するまでの4週間、コンクリートの水和反応を促すためにビニールで覆い、毎日欠かさず水をかけて湿潤養生を行います。
 Iさん宅の躯体はスランプ10cm、基礎は6cmです。従来の打設に比べ作業量や人員は倍かかりましたが、私たちは現場ごとに効率の良い方法を生み出しながら進めており、仕上がりにも誇りを持っています。しかし、やればやるほど完成度を高めたいと欲が出てくるもので、限られた予算内でどこまでできるのかが今の課題の一つです。

Iさん宅の建築工事を担当した(有)屋伸 屋比久潤さん

■アトリエ・ネロ
098-889-0103
http://www.a-nero.com
家族構成:
夫婦、子ども2人
所 在 地 :
八重瀬町
設  計:
アトリエ・ネロ(根路銘安史・水上浩一)
敷地面積:
320.68㎡(97.0坪)
建築面積:
138.16㎡(41.8坪)
延床面積:
128.42㎡(38.8坪)
用途地域:
第1種中高層住居専用地域
構  造:
鉄筋コンクリート造
完成時期:
2008年
  • 施 工 業 者
  • ●建築/(有)屋伸 担当者:屋比久潤
  • ●電気/松島電気工事 担当者:松島良成
  • ●水道/(株)輝水 担当者:新垣直輝
  • ●キッチンワークトップ/LITTAI 担当者:仲地研二
  • ●玄関扉・ダイニングテーブル・いす/まっくる屋工房 担当者:伊礼聡・新垣範雄
  • ●構造設計/パス建築設計室 担当者:新川清則

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