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沖縄の家週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション

沖縄の家selection51

建築士の前田さん宅は、5メートルも突き出た庇(ひさし)の柱をなくしたり、建物が自発的に風を起こす仕組みを取り入れるなど、奥さまの要望をかなえつつ、意匠設計と構造設計の両方をこなす建築士の探究心を形にした住まいです。

風を生み、空に近づく家

風を生み、空に近づく家

■子どもの通学の利便性を優先して土地を購入

 建築士の前田さんは、今年3月、眼下に浦添市の緑豊かな街が広がり、遠景に東シナ海が望める高台の住宅地に自宅兼事務所を完成させました。
 前田さん夫妻がロケーションに恵まれたこの土地を購入したのは、3年ほど前のこと。本腰を入れて土地探しを始めてから間もなく、普段何気なく目にしていた空き地に売り地の看板が立っていることに気付いて、不動産会社へ連絡したのがきっかけでした。
 奥さまは、「私の仕事は残業が多く登下校時の送迎が難しいため、土地選びで重視したのは小学生の長男が安全に通学できること。希望のエリアに売り地がほとんど見つからない中、この場所は徒歩3分圏内に小学校がある上に見晴らしも良く『ここを逃したら、ほかは見つからない』と思い、主人と相談して購入しました」と振り返ります。
 家づくりに当たって奥さまが希望したのは、訪れた人が時間を忘れてくつろげる居心地のいい家です。「仕事から帰宅した後の限られた時間で、子どもの宿題を見ながら効率的に家事をこなさなくてはいけないので、キッチンや水回りの使い勝手にもこだわりました」と言います。それらのイメージを形にするのは、もちろん建築士であるご主人の前田さんです。奥さまは「仕事の設計が最優先されるので、土地を購入してから家を建てるまで、間が空いてしまいましたが、かえって喜びが倍になった気がします」と、にこやかに話します。

風を生み、空に近づく家

飛行機の種類や星座・・・。空の眺めは子どもたちの情操教育にも役立ちそう

風を生み、空に近づく家

7.6メートルの大開口の両側は開閉式の窓にして通風を確保。左手の壁にはホームシアターが設置されています

風を生み、空に近づく家

リビングダイニング、キッチン、畳間などの各スペースは、過ごし方や使い方に合わせて整然と構築されているので雑然とすることなく、壁に貼られたホワイトボードの落書きさえも家族の温もりとして感じられます

風を生み、空に近づく家

1階の子ども室は床高を低くして天井高を確保し、ロフトベッドや本棚を設置。秘密基地のような楽しげな空間に仕上げています

風を生み、空に近づく家

右/奥さまの好きな色合いで統一したキッチン。背面には目隠し用のパーティションを付けてすっきりと見せています
左/洗面脱衣室、浴室、サンルームは南側に並列してつなげています。水回りの窓は、建物正面の外壁との間に設けた緩衝帯に面しているので、防湿や通風採光、プライバシーは確保されます

■パノラマビューを暮らしの中で楽しむ

 5メートルもある車庫の大庇(おおびさし)が目を引く前田さん宅。閉じた印象の建物正面とは対照的に、裏側は見晴らしの良い真北に向かって開いた造りです。住居スペースの1階には、寝室や子ども室などのプライベートな空間、2階にはリビングダイニングやキッチン、水回りをレイアウト。事務所は住居スペースから完全に切り離す形で、1階に設けました。
 住居スペースの玄関正面に配した子ども室には、ロフトベッドと本棚を左右対称に設置。「引っ越したばかりの頃は、長男の友だちが毎日のように遊びに来て、にぎやかでしたよ」と言います。階段を上がってメーンの空間であるリビングダイニングの扉を開くと、窓いっぱいのパノラマビューに圧倒されます。窓の外に視線を遮る建物は一切なく、時間の移ろいごとに違った表情を見せる空もインテリアの一部。さらに、屋上へ続く階段室の窓を開けると、風がすっと通り抜けていくのを感じます。
 奥さまこだわりのキッチンは、オープンでも独立型でもない、いわゆるセミクローズタイプ。キッチンの奥はパントリーや、洗濯干し場として利用しているサンルームへとつなげています。このキッチンの向かいには、小上がりになった畳間を配置。来客時にとても重宝しているそうです。
「もう少し頑張って、長男が幼いうちに建てるべきだったかな」と前田さんは、うれしそうにはしゃぐ子どもたちを見つめながら静かにつぶやいていました。

風を生み、空に近づく家

階段室を上って突き当たりの廊下。正面の壁にカウンターを設置して手洗い器を置いたり、ニッチスペースとして使うなど、空間を無駄なく活用しています

建物の中に温度差を作って風を起こす

■ロケーションのメリットを最大限に享受 ―― 建築士・前田慎さん談

 この敷地の建ぺい率は50%で、実質22坪程度の建坪しかありません。そのため計画に当たって心掛けたのは、限られた建築面積や予算の範囲内に収まるよう、住居と事務所スペースを使いやすくコンパクトにまとめることでした。
 また、北側の隣地が10メートル程度下がっていて、2階から全面パノラマの景色が得られるというロケーションを生かし、2階にリビングを配置して大きな窓を設け、眺望を暮らしの中で楽しめるようにしたいと考えました。ちょうど真北に向かって開口部を設ければ、日差しは室内にほとんど入らないので快適に過ごせます。
 開口計画に当たっては、将来、エアコンを買い替える時に工事費がかさまないよう、ベランダに室外機を置けるようにしたり、適所に換気口を配置するなど、空調設備の設置を前提に計画。さらに、風の向きによって窓の開け方をコントロールすれば、室内に自然な風が通り抜けるようにしたほか、建物の中に意図的に温度差をつくり出すことで、建物が自発的に風を起こせるようにしています。
 南側に配したサンルームと浴室の屋根をガラスにして、ガラスが吸収した日射熱を階段室に効率的に再放出させ、暖まった空気を階段室の最上部のペントハウスに滞留させます。窓を開けると、暖かい空気が排出される際に上昇気流が発生。それによって冷たい空気が引き上げられ、室内の空気を動かすという仕組みです。
 コストダウンへの取り組みとしては、意匠設計と構造設計を自ら行うことで、建築基準法の定める安全率の範囲内で建物構造にかかるコストを調整しました。なかでも、コストアップにつながるペントハウスの設置や大きなガラスの使用については、計画全体を見渡しながらコストコントロールを図りました。
 5メートルも突き出た駐車スペースの庇は、根本の部分を50センチと太く頑丈にして、先端にいくにしたがって細くなる形状。車2台分の庇を柱なしで支えているため、自重によってたわむことがないように、先端にかかる荷重を多めに設定して構造計算を行いました。車の出し入れがしやすいという実用性に加え、特徴的なファサードがつくり出せたと思います。

風を生み、空に近づく家

階段室の最上部にあるペントハウス。この窓を開けると1、2階の居室の空気が縦横に動くのが実感できます

風を生み、空に近づく家

車2台分の屋根となる大庇(おおびさし)がアクセントになった外観。右手のドアが住居用です

前田慎さん

前田慎さん

■家づくりのヒント

■2つの顔を持つヒンプン

風を生み、空に近づく家

玄関扉を開けた時に、正面の子ども室が丸見えにならないように設置したヒンプン(目隠し用の壁)は、玄関側は落ち着いた模様の壁紙を貼って、子ども室側は黒板塗料仕上げにしました。子どもたちが自由に絵を描けば、遊び心のあるインテリアに変身します。

■ポイントウォーカーデザイン
浦添市前田1-33-14 098-963-8865
http://www.the-pwd.com
家族構成:
夫婦、子ども2人
所 在 地 :
浦添市
設  計:
ポイントウォーカーデザイン 担当・前田 慎
敷地面積:
156㎡(47坪)
建築面積:
74㎡(22坪)
延床面積:
129㎡(39坪)
用途地域:
第2種低層住居専用地域
構  造:
鉄筋コンクリート造
完成時期:
2013年3月
  • 施 工 業 者
  • ●建築/米元建設工業(株)(担当・米元 文啓、渡慶次 立)
  • ●電気/日伸電設(担当・米元 敏弘)
  • ●水道/(有)ライフ工業(担当・我喜屋 奨)
  • ●キッチン/(有)MOV(担当・照屋 涼子)
  • ●ホームシアター/アバック沖縄店(担当・當山 寛人)

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