沖縄の家週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション
ムートゥヤー(本家)であるOさん宅は、築50年の実家をコンクリート打ち放しのモダンな家に建て替えたばかりです。南側の庭に開いた住空間は、以前の住まいがベースになったおおらかな造り。おもてなしの心と、家族の結びつきを形にした住まいです。
住宅密集地に建つムートゥヤー
■アシャギの老朽化に伴い実家を建て替え
築50年の実家を建て替えて、今年3月に新居での暮らしをスタートさせたOさん一家は、お母さま、夫妻、4人のお子さまの7人暮らしです。
「わが家はムートゥヤーで、先祖代々の仏壇をまつった『アシャギ』と呼ばれる別棟があります。ここ数年でアシャギの老朽化が進み、コンクリート製の天井がはがれ落ちたりして危険な状態になっていました。リフォームという選択肢もありましたが、思い切ってアシャギと一緒に母屋も建て替えることにしたんです」と振り返るご主人。建て替えに当たっては、沖縄の行事や習わしを大切にするお母さまの意向もあって、家族の生まれ年を避けるなどタイミングも考慮したと言います。
家づくりのパートナーは、身内の紹介で知り合った建築士です。「中学生と高校生の多感な年ごろの子どもたちに声掛けがしやすい間取りや、来客時も家族が気兼ねなく過ごせる動線など、建築士さんはどうしたら3世代が快適に暮らせるかを一生懸命考えてくれました」と奥さまは言います。
打ち合わせには必ず夫婦で参加し、掘り込み式になった浴槽やキッチンのウォールキャビネット、洗面ボウルなど、細部までこだわりました。「建築士さんは、素人の私たちが納得するまで説明してくれ、要望を反映するためにプランを何度も検討してくださいました」とご主人は、イメージ通りの家が建ったと満足そうに話します。
和室側からLDKを見る。吹き抜けのあるリビングを中心に縦横の空間が一体となり、心地良い軒下空間で外部とつながります
玄関ホール。テラスに面した窓から取り込まれた光が御影石に映り込み、モノトーンでまとめた空間を明るくしています
深い軒下の先に見える赤瓦を載せたアシャギは、キッチンから見える位置にあります。琉球石灰岩の壁の後方に吹き抜けを囲むように階段室を配し、2階廊下の手すりをルーバー状にして、子どもたちの様子を見えやすくしています
右/お母さまが安全に入浴できるよう、掘り込み式の浴槽の中には階段を設けました。テラスに面した窓を開けると露天風呂感覚で入浴が楽しめます
左/浴室、トイレ、洗面脱衣室は回遊動線上に配置。奥に見える扉はお母さまの部屋です
■南向きの新居で開放的な暮らしを満喫
Oさん宅は、吹き抜けのあるリビングを中心としたコンクリート打ち放しの2階建て。「使いやすさを考えたら自然にこの並びになりました」と、間取りは建て替え前の家がベースになり、家相上重要視されるトイレや火の神の位置決めには風水盤を使用しました。
表座に当たる仏間とLDKは南側に、対する裏座にはお母さまの部屋と水回りなどを配置。2階に配したOさん夫妻の部屋や4つの子ども室とは吹き抜けを介してつながります。「母の部屋は水回りに一番近く、東側の庭が望める明るい場所にしました」と高齢のお母さまに対する配慮も忘れません。さらに、ほかの居室から離れた位置に多目的室を確保。「帰宅の遅い日はここでビール片手にくつろいでいます」と、ご主人はうれしそうです。
庭に面したリビングは、吹き抜け全体を使って大きな開口部を設け、隣家の赤瓦屋根と青空のコントラストが楽しめるようにしています。「この開放的な暮らしにずっとあこがれていたんですよね。風通しが良いのでエアコン要らず。室内と連続して使えるウッドデッキはホームパーティーの時に便利です」とOさん夫妻は言います。
「父が建てた家を取り壊す時は、やはり寂しく感じましたね」と話すご主人の気持ちを察してか、庭づくりでは4人の子どもたちが率先して芝生貼りを行ったそうで、先祖代々受け継がれてきた土地に家族の歴史を少しずつ刻み始めていました。
双子のお子さまの部屋は、可動式の壁を取り外せばワンルームになります。正面の窓からベランダへ出られます
ご主人たっての希望だった多目的室。ほかの居室と離れた位置にあるので、音量を気にせずに映画鑑賞が楽しめます
3世代のコミュニケーションが育める住まいを提案
■空間によって材料を使い分け、計画全体のコストバランスを図る ――
建築士・鉢嶺元一さん談
敷地は住宅密集地の中にある角地です。本家であるOさん宅の敷地にはアシャギがあるため、普段お付き合いのない方でも先祖供養のために敷地内を出入りし、お盆や正月にはひっきりなしに来客があります。こうした事情もある一方で、北側と西側に建つアパートや比較的交通量が多い道路から家族のプライバシーを守る必要もあり、計画ではコンクリートの外壁で囲んだプランを検討。ただし、来客や地域に対して閉鎖的になりすぎないよう、北側と西側は道路斜線が定める高さ制限ぎりぎりの外壁で閉じ、対する南側と東側は庭に向かって大きく開口するなど、開く部分と閉じる部分のバランスに配慮しました。
建物は、施主の要望もあってコンクリート打ち放しの質感を内外装に生かした造りを提案しました。建て替え前も吉方位や通風採光などが考慮されていましたので、建物やアシャギ、駐車スペースは以前と同じ場所に配置。今回はアシャギ用の駐車スペースを新設しました。
間取りについては、同居されているお母さまの意見やOさん夫妻の要望を反映するのはもちろんのこと、3世代のコミュニケーションが育める家づくりを心掛けました。具体的には、階段室の入り口はお母さまの部屋の手前に配置して家族みんなで気遣えるようにしたほか、子どもたちの出入りがリビングやキッチンからも見えるよう、吹き抜け沿いに階段室を設けています。さらに、スポーツに夢中な子どもたちが来客時も気兼ねなく過ごせるよう、玄関からテラスを通って浴室につながる動線を確保。泥だらけで帰宅しても安心です。
ボリュームのあるコンクリート打ち放しの建物ですので、型枠に使用するパネルを無駄なく使えて、なおかつ目地がそろった美しい仕上がりになるよう、開口部や壁の寸法などはできるだけパネルの規格サイズに合わせて設計してコスト削減につなげました。また、プライベートな空間を配した2階の床はクッションフロアをコンクリート直貼りにし、パブリック空間である玄関周りの床材は御影石を敷設。さらにリビングの壁には琉球石灰岩を施工するなど、空間の用途に応じて材料を使い分け、本家にふさわしい重厚感のある住まいが作り出せたと思います。
子どもたちは部活動があるため、家族一緒に食事をする機会が少ないOさん宅では、ダイニングテーブルの代わりにカウンターを設置。キッチンの上に見える木部は建具となっていて、左右にスライドすれば子ども室とつながります
駐車場側の外壁にご主人の好きなオリオン座をモチーフにした照明を設置
プライバシーを守るために建てた外壁と建物との間にすき間を作って、北側に並べた居室や水回りの通風採光を確保。東側はアルミのルーバーで程よく目隠しています
西側に配したテラスは、玄関ホールや多目的室、水回りとつながっています
鉢嶺元一さん
■家づくりのヒント
■6人分の荷物や衣類を一括管理
2階に配した5つの個室それぞれにクロゼットを造り付けてしまうと、コストアップにつながるため、大容量のウオークインクロゼットで6人分の衣類を一括管理しています。一人当たり必要なポールの長さは約90センチと想定。ポールの下には既成品の収納家具が置けるスペースを確保し、両サイドには来客用の布団といった大きな荷物が置ける棚を設置するなど、管理のしやすい造りとなっています。
- ■空(SORA)
- 那覇市長田1-12-32 シャトレ88 ♯201
- http://sora.okinawa.jp
- 家族構成:
- 母、夫婦、子ども4人
- 所 在 地 :
- 那覇市
- 設 計:
- 空(SORA) 担当・鉢嶺元一
- 敷地面積:
- 464.98㎡(140.65坪)
- 建築面積:
- 154.95㎡(46.87坪)
- 延床面積:
- 217.94㎡(65.92坪)
- 用途地域:
- 第1種低層住居専用地域
- 構 造:
- RC壁式構造
- 完成時期:
- 2013年3月
- 施 工 業 者
- ●建築/(有)南風原工務店(担当・金田宗輔)
- ●電気/(株)大幸電設(担当・玉城学)
- ●水道/(有)ライフ工業(担当・高山佳晃)
- ●キッチン/沖縄ガス(株)(担当・久手堅憲文)