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沖縄の家週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション

沖縄の家selection51

本部町の豊かな自然に包まれて建つKさん宅。
木造赤瓦葺きの在来住宅にこだわり、土地を購入してから七年越しでマイホームの夢を実現しました。

木の力と匠の技の貫木屋

木の力と匠の技の貫木屋

■伝統建築へのこだわり

 家を建てるなら木の家にしようと、Kさんは以前から考えていました。それも生家のように、できるだけ在来の造りを取り入れた伝統的な沖縄家屋に。
 土地は七年ほど前に取得していました。ご夫妻とも本部半島出身とあって、本部町の海の見晴らしが良い丘陵地を購入。ただ、しばらくの間は離島や海外赴任が続いたため、土地を寝かせたまま少しずつ家づくりの準備を進めました。「情報紙で調べたり、ホームページを見て業者に問い合わせをしたり。間取りはいろいろなパターンを考えましたが、結局は平屋で一番座、二番座が並ぶ昔ながらの造りに落ち着きました」とKさん。「外国で長く暮らしたことが自分の生い立ちを深く見つめ直すきっかけになり、伝統的な家構えに引かれていったのかもしれません」と振り返ります。
 そして一昨年になってようやく本格的に家づくりを始める環境が整いました。以前に相談した建築会社を訪ね、施工物件などを見学して回っていたところ、Kさんが「まさに一目ぼれでした」と興奮気味に話すほど、ひときわ太くて立派な大黒柱に遭遇。その業者に依頼を決めました。
 おおよその間取りはKさんの腹案通り確定していましたが、細かい部分については担当者と何度もメールでやり取りしながら、時間をかけて微調整を行いました。完成した家全体を眺めてみると、半分は伝統家屋の造りそのものですが、残り半分にはモダンなキッチンカウンターや可変式の子ども室など、現代風の要素も取り入れられています。

木の力と匠の技の貫木屋

柱や梁は沖縄に古くから伝わる木造軸組工法の貫木屋(ぬちじやー)。柱に貫孔を開けて貫を通し、くさびで締め固める工法で、日本建築の影響を受けています。中央には一尺(約30cm)角の大黒柱が建ち、一家の暮らしを支えています

木の力と匠の技の貫木屋

屋根には雌雄一対の瓦を重ねて漆喰(しっくい)で塗り固める在来瓦を使用。瓦の赤と漆喰の白が青空に映えます

■梁や桁が見える天井仕上げ

 Kさんの新居は昨年末に完成し、年明けから入居。待望のマイホーム暮らしが始まりました。
 裏座の縁側からは庭越しに東シナ海を見下ろし、遠く伊是名島、伊平屋島の島影が望めます。庭の中央には既存の松の木がぽつりと立ち、その周りを三人の子どもたちが元気に走り回っています。Kさんは笑顔で見守りながら、「仕事から家に帰るのが楽しみでしょうがないんです」と話します。
 表座に回り、三番座に当たるのがLDK。天井を見上げれば、大黒柱を中心に梁(はり)や桁(けた)が幾重にも重なり、吹き抜けのような解放感と木の家特有の安心感に包まれます。一番座には古式ゆかしい床の間があり、Kさんによると「昔の床の間は今と比べて少し高さがあるんです。施工時に大工さんに無理を言って、実家と同じ寸法に合わせてもらいました」とのこと。サッシを使わず木製雨戸にした南の開口部と並んで、Kさんが特にこだわったポイントです。さらに表座の縁側にはチャーギの柱が立ち並び、ちょっとしたアマハジ(雨端)空間になっています。
「これでも妥協した点は多いんですよ。例えば玄関の代わりに土間を敷いて、その脇にいろりを置きたかったし、北側の窓も南側同様、本当は雨戸にしたかったんです」とKさん。いろりは場所を移してリビングに設置したところ、「寒い日は暖を取るのに大助かりでした」とのこと。夏にはどんな楽しみが待っているのか、胸躍る新生活が続きます。

木の力と匠の技の貫木屋

居室間に設けた鴨居は、柱など構造材と一緒に組み上げる“きゃくろ造り”で施工

玄関。当初は昔ながらの沖縄家屋に倣って造らない予定でした

木の力と匠の技の貫木屋

子ども室は将来を見据え、2部屋に仕切れる造りに。中央にドアを2つ備え、その両脇にはクロゼットを設置しています

木の力と匠の技の貫木屋

裏座に当たる寝室。写真右手奥の扉を開けると縁側とつながり、表座へ回ることができます

木の力と匠の技の貫木屋

キッチン内部の様子。使い勝手を考え床面のレベルをやや低めに設定しました

〝きゃくろ造り〟や化粧現しの小屋組みなど在来の技術が随所に

■台風・雨水対策は施工方法にひと工夫 ―― 担当者・福森勇さん談

 Kさん宅が建つ敷地は丘の中腹の急傾斜地で、切り土して造成。幸い強固で安定した地盤だったので、施工はスムーズに行えました。
 Kさんからの要望は、できるだけ昔の造りに忠実な家を建てることでした。そこで私たちも職人の手腕を存分に生かし、至る所に高度な技法を取り入れました。例えばリビング上部の梁組みには太くて曲がり具合の良い木材を二重三重に載せ掛け意匠を凝らし、居室では鴨居(かもい)と長押(なげし)を一体化して構造材と一緒に組み上げる“きゃくろ”と呼ばれる工法を採用。豪壮な室内空間を演出しました。
 台風や雨水対策にも万全を期しています。軒桁から雨水の浸入を防ぐ面戸板は、垂木の間にただ打ち込むのではなく、取り付け位置やほかの部材との取り合いを工夫したり、躯体強度を通常の一・五倍まで高めるために、杉板を壁面に二重に張り付けたり、随所に補強を施しています。
 使用している木材は、構造材、化粧材ともほとんどすべて無垢(むく)の杉材です。複数の樹種を使うと“暴れ具合”がバラバラだったり相性の問題もあるので、極力統一したほうがよいと考えています。ただし雨戸のレール部分と浴室だけは、堅くて湿気に強いヒノキを施工しました。また無塗装のフローリングに象徴されるように、いわゆる新建材は一切使用していません。
 木造住宅の需要は年々増加していますが、Kさん宅ほど在来の技術にこだわった家は、予算や実生活の問題上、なかなかお目に掛かることはできないのではないでしょうか。

木の力と匠の技の貫木屋

庭は子どもたちの遊び場。既存の松の木をシンボルツリーに見立て、その周囲に切り土をならして整備しました

木の力と匠の技の貫木屋

キッチンの一角だけ見ると、伝統建築とは趣の異なるモダンなイメージ。廊下の奥には洗面室、物干し場など水回りがまとまっています

木の力と匠の技の貫木屋

右/礎石にチャーギの柱を建て、庇の深いアマハジ空間を構成。軒下や縁側の木組みの美しさと相まって独特の風情が漂います
左/ヒノキ板張りのバスルーム。木造にこだわるKさんの要望を受け素材を選定しました

福森勇さん

福森勇さん

■家づくりのヒント

■家の中心で骨組みを支える一尺角の大黒柱

木造住宅で大空間を造るには大黒柱が必需です。Kさん宅の三番座にある大黒柱は一尺(約30cm)角の国産無垢杉材。ひときわ目立つ太さもさることながら、荷重が集中する家屋のちょうど中央にあり、骨組み全体をしっかり支えています。大黒柱の位置が構造計算上の強度に影響するわけではありませんが、福森さんの経験則上、中央に近いほどより強固な構造になるそうです。

■木脇ホーム
中城村南上原955-2 イーストヒル1F
098-988-1234
http://www.kiwaki-okinawa.com
家族構成:
夫婦、子ども三人
所 在 地 :
本部町
設計・施工:
木脇ホーム
敷地面積:
498.00㎡(約150.64坪)
建築面積:
140.79㎡(約42.57坪)
延床面積:
140.79㎡(約42.57坪)
用途地域:
無指定
構  造:
木造平屋建て
完成時期:
2009年12月

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