沖縄に住む~移住者紹介~週刊かふう特別編集「こんな家に住みたい」セレクション
亀谷さん宅(南城市)
2013年の春、亀谷修身さんは海に臨む地に、わが家をDIYで完成させました。
DIYで建てた家
築56年の古民家を解体、移築して建てた亀谷さんの家。室内から太陽や月の出が見える、眺めのよい場所にあります。
■築56年の家を解体、移築へ
15年前、旅人として沖縄に来た修身さん。沖縄が気に入り、滞在を延ばすうちに、東京から沖縄の大学に進学した明日香さんと巡り合い、一緒に暮らすことになりました。実は引っ越しが好きで、あちこち転居を繰り返していましたが、いつの間にやら4人の子の父親となり、その子たちの学校のことなどを考えて、ひとところに落ち着く決心を固めたのだそうです。
そんなとき、海にほど近い原野に「貸地」の立札を見つけ、交渉したところ、450坪の土地を長期に渡り貸してもらえることになりました。最初から、家は自分で建てるつもりでいた亀谷さん。大家さんがユンボで簡単に整地をしてくれたので、まずはトイレを作り、それからコンテナを購入して、とりあえず自宅として使うことにしました。将来的には土のうを積み上げて、ドーム状の家を作ることを考えていました。ちなみに、これは中東地域の伝統的な家づくりの工法で、アースバッグ(土のう=土を詰めた袋のこと)工法と呼ぶそうです。
ところが、コンテナが届いた翌日、知人から「取り壊しが決まった古い家があるけれど、もらわない?」という話があり、まずは出かけてみることにしました。
「懐中電灯を手に、床下とか天井裏もチェックして、使えそうだなと。天井裏に見付けた紫微鑾駕(シビランカ、防火の護符とされ、通常上棟式の日に棟木や紙、板などに、この字と日付を記した)の文字から、築56年であることが分かりました」と修身さん。急きょ、ドームハウスから古民家移築へと計画を切り替えることにしました。
■友人・知人の手を借りて
古民家の解体には2か月ほどかかりました。
「素人なので、自分で解体することで、家の作り方を学びました。壁や瓦、床をはいだあと、最後に木組みを解体しますが、そのときに、柱や梁などの木材に『いの1』『いの2』などと番号を付けていきます。この番号ふりをきっちりすることが肝心です」と修身さん。その後、解体した家を、車で何往復もして、移築現場へと運び込みました。
修身さんは、建築の素人でしたが、木造で延床面積100㎡までなら素人の設計でも建築確認申請を出すことができます。また、那覇でゲストハウスを営んでいたこともあり、そのネットワークから、家づくりの手助けをしてくれる人たちも現れました。
一番大変だったのは屋根の瓦葺きで、「古いものだから、一つひとつ磨いて、きれいにしてからじゃないと使えない。やり方は解体するときに、頭に叩き込んでおきました。セメント瓦は、裏側にちょこっと穴が開いていて、そこに針金を通して桟木に止めていく。あと、奥さんから『ぼろでもいいけど、雨漏りはしないように』と言われていたから、仕上げに防水塗料も施しました」と修身さん。
楽しかったことは山ほどあって、「図面通りに、実物大にできていくのを見るのは楽しかった。柱が一本ずつ立っていくのも快感だった。手伝いに来てくれた人たちを、ねぎらって開く宴会も楽しかった」と思い出は尽きません。
室内へは縁側から。大きな琉球石灰岩を見つけてきて、沓脱石(くつぬぎいし)として使っています
寝室。壁は琉球しっくい。友人たちの手を借りて仕上げたものです
家の中心となる居間は、天井をできるだけ高くして広がりのある空間に。左側上部にはロフトを作っています
■わが家のことなら何でもわかる
修身さんは、元の家そのままを復元したわけではなく、たとえばベニヤ張りの壁を漆喰仕上げに替えたり、水回りを移動して北側にまとめたり、畳間をなくし足場用の板で床を張ったり、縁側を広げ寝っ転がって気持ち良いように素焼きのタイルを敷くなど、工夫のあとが随所に見られます。さらに、「天井を張らずに、居間と裏の子ども部屋にまたがるかたちで、ロフト部分も作りました。子ども部屋の窓を開ければ、風の通り道になるし、子どもの遊び場にもなる。窓は折れ戸タイプにして、大きく開放できるようにしています。エアコン用のコンセントも作ってありますが、今のところ、エアコンなしで快適に過ごしています」と住み心地は上々のよう。東に面した居間からは、太陽や月の出が楽しめます。
ところで、当初自宅になる予定だったコンテナは、というと、現在一部を明日香さんの作品を販売する紅型雑貨「虹亀商店」として活用中。紅型染めのTシャツや手ぬぐい類が主力商品ですが、和紙に染めて、あんどんに仕立てた「あかり」やオーダーメイドの「紅型表札」も人気。家の中にも、明日香さんの作品があちらこちらに使われています。
古民家の解体からわが家の完成まで約2年。「私は直接家づくりに参加はしていないけれど、ずっと側でその過程を見てきました。本当に気の遠くなるような、細かな作業の積み重ねで家ができていきました。この家のこと、全部がわかる、そんな気持ちになれること。そこが手作りのいいところですね」と明日香さん。家づくりが家族の絆をいっそう深めてくれたようです。
左/女の子の部屋
右/男の子の部屋
明るいキッチン。キッチンの設備は、廃棄処分されるものをもらってきて取り付けたとのこと
左/突き当りにトイレと洗面室。右奥に浴室。水回りは北側にまとめています
右/窓は大きく開放できるように折れ戸タイプを多用しています
明るく開放的な居間。風が通り抜けるように工夫されているので、この夏はエアコンがなくても快適に過ごせたそうです
居間。かつて仏壇のあったところを棚に代えて、明日香さんの作品や三線などを飾っています。上部のロフトは子ども室につながり、風の通り道にもなっています
紅型雑貨「虹亀商店」店内
コンテナで紅型雑貨「虹亀商店」を営業
- 家族構成:
- 夫婦、子ども4人
- 所 在 地 :
- 南城市
- 敷地面積:
- 450坪(定借)
- 延床面積:
- 約95坪
- 用途地域:
- 指定なし
- 構 造:
- 木造平屋建て
- 完成時期:
- 2013年4月